~悪魔執事とお嬢様~

ならなおさら早めに少年の元へ
たどり着かないと。



「…見えた。」



少年の姿が目に映った。
無駄に足が早い。


元々かなり狭い路地だったが、
進むにつれてどんどん狭く、
暗くなって行った。


このヒラヒラドレスだと明らかに不利だ。

どこに向かっているんだろう。
そう思っていると、急に視界が広がった。


思った以上に汚いが、
狭い路地を走るよりはマシに思える。

少年は私たちに気づかず、少しペースを
落とした。


この開けた場所は、もう私の知っている
華やかな場所ではない。

俗に言うスラム街だ。


家はボロボロで、
窓はほとんど割れている。

雨水に浸された古い新聞が地面を覆い、
時にはガラスの破片や木材が
散らばっていた。



「お嬢様、ここから先はできるだけ、
私と離れないようにしてください。」



場所が場所なだけあって、シリウスは
用心深く回りをみながらそう言った。

さっきから、どこか見えない視線が
あるように思えてならない。


私も用心しながら歩調を緩めた。

家の周りには、なにも履いていない痩せた
膝の子供たちが鋭い目で私たちをみながら
座っていた。


私はこの現実__この我が国の醜く
恥ずべき姿から目をそらすため、
前にいる少年だけを見た。


ここを醜いと思ったわけでも、彼らを
醜いと思ったわけでもない。


彼らのような者たちがいなければ、
私は今のような生活ができないからだ。


そんな自分達貴族が、
この国が醜いと思った。

そんな現実には、今すぐ目をそらしたい。

私はフォスター家を名乗れるほど、
まだ残酷ではないのだ。


いずれはそうあるべきなのだろうが、
今は鷹になりきれていない。

この光景をみても、彼らを醜い、汚い、
としか思えないような冷酷な人間には、

まだ。

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