~悪魔執事とお嬢様~
「おい。」
少年ではない。後ろから聞こえた。
嗄れた低い声を背に、私は立ち止まる。
「お前さん、何者だ。」
足音が聞こえた。5,6人、それ以上か。
少年はあと少しで目に見えない位置に
いってしまう。
見失うのはなんとしても避けたかった。
「この先に用があるだけです。
すぐに立ち去ります。」
変に追いかけられたりするより、
軽くあしらった方がいい。
「俺たちにはアブナーを
追っているようにしか見えないぜ。」
アブナー……少年の名か。
確実に面倒なことになるな。
「なぜ追ってるんだ?
理由次第では俺たちの対応も変わるが……」
「お金を払えば見逃しますか?」
男は微かに嗤ったような気がした。
最初からそれが目的か。
「さあな。額によるぜ。」
「シリウス、払いなさい。」
あまり無駄にはしたくないが、
時間を割きたくない。
シリウスは懐から金貨を2枚放り投げた。
バカ。やりすぎだ。
男たちは一斉に金貨へ群がる。
たかだか2枚の金貨に。
私は少年を追うため、
曲がり角へと走った。
「お金を払う、というのは、
お嬢様にしては中々良い考えでしたね。」
私はフッと鼻をならした。
この無礼な態度は後でしばくとして、
今は少年の行き先が第一だ。
曲がり角を走り、目の前を見た。
少年は意外にもまだ近くにいた。
相変わらず後ろを振り返ろうとしない。
不思議なことに、進むにつれて
なんだか辺りが焦げ臭くなっていった。