~悪魔執事とお嬢様~
「痛みは?」
「当然あります。ですが、それだけです。
何て事ありません。」
チッ、つまらん。
私は剣に伝っている赤い血をハンカチで
拭い、鞘に収めた。
「なんとも“可憐”な事をなさいますね。
まあ、この程度の傷はすぐに治せますが。」
シリウスは手袋をはずし、
傷口をなぞっていった。ベットリと赤黒い
血がシリウスの手につく。
彼はそれをうっとりと見つめ、
自らの舌で舐めとった。
おぞましい。まるで餓えた獣のようだ。
「…失礼いたしました。いきましょう。」
シリウスは手袋をはめなおした。
私はもう一度首を見てみた。
傷は消えている。
あれは傷を消す為の
魔法だったのだろうか。
しかしどちらにしても血を舐める必要は
これっぽっちもなかったと思う。
「しかし、本当に変わったステッキですね。
他にも何か違う使い方が?」
「ええ、まあ。
これは生涯使う事はないと思いますが、
鷹の彫刻を回せば、頭がとれて
ワイングラスの代わりになるとか。」
私は昔、お父様がお酒を制限されていたときに、それでこっそりワインを飲んでいたのを目撃したことがあった。
本当に少量だったのだが、ヴィル爺に
匂いでバレてしまい、こっぴどく
しばかれていた。
「では、
いつか私と杯をあげてはいかがですか?」
「執事と?」
バカなんじゃないかこいつは。
なぜ私が執事と酒なんて
飲まなければいけないんだ。
そう思い、私は片方の眉をつり上げながら
路地をまた歩き始めた。
「いえ、悪魔と。」
シリウスがそう言うと、後ろから
ヒールの高いブーツの音が鳴り響く。
何を思ってそのブーツを選んだのか
本当に分からん…