~悪魔執事とお嬢様~
生憎ながら私に“レディらしさ”
なんてものは露程も備わっていない。
そんなものを身に付けるくらいなら、
乗馬や狩猟の練習でもしていた方がいい。
だが、そんな練習をしようものなら、
瞬く間にヴィル爺が現れてこう言うだろう。
「そのような事ができるのは、しっかりと
したレディに成られたお方のみで
ございます。」と。
昔からそうだ。
お父様の狩猟に着いていったときも、
「してみるかい?」と言われ銃を手に取った瞬間お母様やヴィル爺に止められた。
二人がいうには、
「活発な娘にさせてしまいたくはない」
だそうだ。
虫一匹もなかなか殺せない箱入り娘だったお母様がいうのはまだ分かるが、
ヴィル爺はお父様の執事だろうに。
お母様とヴィル爺に止められたせいで
狩猟は一度もやったことがない。
一度でいいからしてみたいものだ。
(その代わり一度か二度、拳銃は
させてもらったことがある。)
乗馬はお父様が強く推したお陰で
何度もしているが、最近はさせてもらった記憶がない。
久々にまたできないものだろうか…。
ーーガタンッ
馬車が止まったらしく、少し揺れた。
全く、考え事はする物ではないな。
考え事に気をとられ、揺れに対する
準備ができずに少し衝撃を受けた。
シリウスが馬車のドアを開け、
先に降りてから私に手をさしのべた。
その手を受け取って私も地面に足をつけ、
屋敷に向かって歩き始めた。
が、屋敷に入るつもりは毛頭なかった。
私はその前に、自分の愛犬であるアーノルドに会いに行った。
なんとかアーノルドの名前を使って狩猟ができるようヴィル爺に頼もうと思った。
アーノルドが気になったのも事実だが。
「またあの犬に会いに行くのですか?
私と言う素晴らしい愛犬があなたに
お仕えしていながらも。」
シリウスは皮肉混じりにそう言った。
飼い主に噛みつくような犬を愛犬に
するわけないではないか。と私は
思ったが、それは言わないでおこう。
言ったらどうせ、
「愛嬌としての甘噛みです」とか気持ち悪い言葉を並べるのだろうから。
しかし、まあそれはいいとしてシリウスは
アーノルドのことが嫌いなのだろうか。
寧ろ、同じ犬なのだし、いずれは仲良く
なれるだろうと放置するつもりだったが、
思った以上にそれは危険そうだ。
「お前がもし、私に狩猟を許すと言うのなら好感度が多少なりと上がるかもしれませんね。
少なくとも野良犬並みには」
私は早足で小屋に入った。
アーノルドは私が小屋に向かっていた
ことに早い段階から気づいていたようで、
既に出迎えていた。