~悪魔執事とお嬢様~


本当に賢い犬だ。

そんな可愛らしいアーノルドを小屋に一人ぼっちで居させるのは私としては気が引ける。

元々屋敷に置いていたので、今すぐにでもアーノルドを家にいれてやりたい。


家の内装が整ったら、真っ先に迎え入れようと思う。



私はアーノルドの頭を撫でた。

舌を出して尻尾をふり、
大人しく座ってているアーノルドは、
とても愛らしく思えた。


私のとなりでこの可愛らしい犬を
睨んでいる人型のバカ犬とは大違いだ。



「狩猟と先程仰っていましたが、この犬も
その道具でしょうか。」



「アーノルドが?あぁ、まあ、そうですね。
お父様は狩猟が得意だったので、
アーノルド一頭で充分でした。」



道具という言い方はあまり
気に入らなかったが、狩猟に使うとすれば
アーノルドは紛れもなく道具だった。

狩猟に関してはイングリッシュ・フォックス・ハウンドが一番適しているのだが、

なにしろお父様は変わったものが
好きだったので、メジャーな犬が
飼われることはなかった。


全く、私にしろ、お父様にしろ、
ステッキを作った先祖にしろ、我が一族は
変わり者が多いな。


イングリッシュ・フォックス・ハウンドは正に狩猟のために生み出された犬で、
何年も流行している狐狩りには
もってこいの犬種なのらしい。

逆に、我が愛犬であるアーノルドの
ジャーマン・シェパードという犬種は、
軍用犬として最近生み出されたものだと
お父様にきいた。

(注:現在のオールド・ジャーマン・シェパード・ドッグであるが、当時はジャーマン・シェパード・ドッグと呼ばれていた。)



「それならよかったです。
お嬢様によりつくような“牡犬”は少ないに限りますから。」



「そんなに言うならお前のために“牝犬”を飼ってやりましょうか?

人間だろうと犬だろうと構いませんよ?」



「いえ、必要ありません。
私の社交ダンスの相手は由緒正しい方としか踊らない主義ですので。」



その社交ダンスが比喩だろうが言葉通りだろうが、執事に相手を決める権利はないと思うのだが。



「Cheeky dog(可愛いげのない犬)が。
アーノルドと大違いですね。

アーノルド、こっちへおいで。
お前は本当に可愛いな。

忠実で、温かくて優しくて…」



正直、アーノルドをシリウスへの挑発の
材料にするのは気が引けたが、

すべて本心だった。


イギリスでは犬は大切なパートナーとして愛されている。

特に今は女王陛下が愛犬家なのもあってブームになっているようだ。


一世紀前ではbullbaiting(牛いじめ)等と
言うブラッド・スポーツ__動物虐待も
甚だしい行為が行われていたそうだが。

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