~悪魔執事とお嬢様~


「そこまで犬に慈悲深いというのに、
狐は残虐なまでに狩るのですね。」



シリウスは軽蔑するかのような視線をアーノルドから私に移した。


確かに傲慢だとは思うが、私は全ての
生き物に慈悲深い神ではない。



「…そんなところまで言及してしまえば、
最終的に肉も食べられなくなるでしょうが。

犬も狐も、牛も鳥も馬も所詮は人間が
決めた命の価値で判断し、扱っています。

それになにかを言ってしまっては、
全てを正さなければ行けなくなる。

そういうものは、時代の流れによって
変わってしまうんですから」



私はだんだん頭にきて、向きになっていた。

人間の考えへの矛盾を突きつけられたかのような気がして。


シリウスは恐らく、私を嘲笑したいだけなのだから、普通に流せばいいものを。

虚を突かれたと思った瞬間、しなくても
いい反論を、考えなくてもいい答えをわざわざ長ったらしく話してしまった。


我ながら浅はかすぎる。自分をどこまでも安易に肯定するだなんて。


そしてそれを話してしまった時点で私は、
きっと負けなんだろう。


しかしシリウスは、見下すように嘲笑
すると思いきや逆に、待っていたとでも
言うような様子で唇を綻ばせた。



「非常に人間らしい
傲慢で強情且つ卑劣な考えですね。

まあそれはそうと、そろそろその犬を
撫でるのをやめて屋敷に戻っては
いかがですか?」



あぁ、そうだった。私にはまだやらなくてはならないことがあった。

仕方無い、戻るとするか。

私はアーノルドの首許にそっとキスをして小屋を去った。



「シリウス、次の事を今日までにやりなさい。

屋敷の内装をもっと私好みに変えること。
お父様とお母様の遺品は貴重品以外全て
焼却すること。」



「かしこまりました。」



一日で本当にできるのか見物だな。

が、私は一日で全て出来ることよりも
“私好み”の内装に変えられることの方が気になっていた。


私は試したのだ。
彼がただのお飾り執事でないかどうかを。

とはいえ、仮に私好みを正確に知っていたとしたらそれはそれで問題だと思う。



「後、これは早急にですが、
なにか甘いデザートを作ってください。

私は書斎にいます。」



「一々と注文が多いですね。
しかし、それが貴方のお望みとあらば。

承知いたしました。」



最初の一言がこの上なく余計だ。



私はシリウスの態度で不機嫌になりながらフンと鼻をならして書斎に向かった。


フォスター社に関する書類は粗方目を
通していたが、肝心のフォスター家の方の
書類はまるで見ていなかった。

私が伯爵と名乗るためにはこっちを
見た方が遥かにいいはずなのだが、
昨日はそんな暇がなかったのだ。



「ハァ…時間がかかる」


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