~悪魔執事とお嬢様~

と、ひとつだけ目についたものがあった。


一枚の手紙だ。

まるで私に見つけられることを
待っていたかのように置かれていた。


誰のものだろう。


お父様は、もらった手紙と書いた手紙を
きちんと分けて保管していて、この引き出しは手紙を保管する場所ではない。

几帳面なお父様が、うっかりここに置き忘れたとも考えにくかった。


私は手紙を手に取ることに躊躇しながら
考えを巡らせた。


誰かがここにいれた?誰が?
お母様か誰かが悪戯でもしたのだろうか。

それとも、お父様が故意に?何故?

そもそも、私と関係無さそうな手紙を
なぜヴィル爺は捨てなかったのだろう。


色々不明な点に戸惑いつつも、私はその
皺ひとつない手紙を取り出した。

少し重くて、一点が膨らんでいた。
何か固い大きなものが入っているようだ。

早く開けたいような開けたくないような
不安な気持ちになりながらも、差出人が
書いていないかひっくり返してみた。


何も書いていない。


次に封蝋を見てみた。
見慣れた鷹のシンボルが刻まれている。
(紋章とはまた異なる)

だとしたら、やはりこの手紙はお母様か
お父様が書いたと考えるのが妥当だろう。


私は恐る恐るペーパーナイフで手紙を
開けてみた。

雑にナイフを置き、丁寧に折り畳まれた白い紙と、封筒を膨らませていた固い何かを取り出した。



「これは…」



とても美しい。

まるで夕日を閉じ込めたかのように赤い
大きな宝石がネックレスとなって
目の前にある。



「この色…どこかで見たような」



テムズ川へと落ちる斜陽のように、
赤々と燃える炎のように赤いその色に、
なぜか見覚えがあった。

どこで見たのだろう。


私はすっかりその宝石に魅入られていた。
まるで狼に見つめられた鹿のように。

美しく、妖しく、好奇心と不安を掻き立てるように輝いている。



ーーこれ以上この宝石を見つめるのは危険だ。


これ以上見続けると、一生目が話せない気がした。

宝石の虜になったまま、朽ちてしまう気がした。


私は目を瞑ってから宝石の見えない方向を向き、目を開けた。

手紙はまだ手の中にある。


私はハンカチを宝石の上に被せてから、
折り畳まれた手紙を開いた。

最初の一行目は、
『Dear daughter(愛しい我が娘へ)』
とかいてあった。


二枚重なっていたので、二枚目の最後の
行を見た。


『Oliver・Foster 1875』


オリヴァー・フォスター、お父様の名だ。
お父様が私宛に?

なぜだ?生前に口頭で伝えればよかったのに。


私は手紙を一枚目に戻して、お父様の手紙を読んだ。

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