~悪魔執事とお嬢様~

‐愛しい我が娘へ


この手紙を読まないことを願っているが、
残念ながらそれは叶わぬ願いだ。

私たちが天寿を全うしようと、
予期せぬ死に巡り会おうと、どのみち君は
必ず読むことになるのだから。


私がこの手紙を書いている今の君は、まだほんの3歳だ。

小さな手で私を抱き締め、お父様と天使のような声で問い掛ける。

きっと、
美しく聡明な女性になるのだろう。


しかし君には、
ある運命付けられた十字架がある。

君が例えエミリーのような、神のように心優しい人間だとしても、赦してくれとは言わない。


すべて、私達の責任だ。
私達はもう子供を授かれない。

次にフォスター家の名を継ぐのは、
お前しかいない。


封筒の中に入っているものを君はもう見たのだろう。あの光耀く赤い宝石を。


我々フォスターの名を継ぐものは、
これを守りぬかねばならない。

例え、愛する人を喪おうとも、
己の身を焼かれようとも、絶対に。


なぜ?と不安に、不思議に思うだろう。

私もそうだった。
お前のお爺様も、そのまたお爺様も、そのまた次のお爺様も、誰もがそう思った。


全ては初代のフォスター家当主、
ブラッドリー・フォスター
(Bradley・Foster)が当時の国王陛下に
宝石を守る仕事を任されたのが始まりだ。


なぜそんな事をしなければならないのか。

その石は、国王陛下が仰るところの
奇跡の石だが、私から言わせると
呪われた石だ。

ブラッド・ジェム(血の宝石)という名が付けられただけはある。

その石には、歴代の国王達の生き血と
魂が眠っている。


なぜそれほどまでに赤いのか、
それほどまでに美しいのか、


理由は至って簡単だ。


その宝石に染み込んでいるのは、
薔薇のような真っ赤な血なのだから。

その宝石に包まれて眠っているのは、
儚い命を歩んできた魂たちなのだから。


だが、これに惑わされてはいけない。
声が聞こえてきたのなら、
すぐに逃げなさい。

声に誘惑されると次に目を奪われる。
目を奪われると次に体を奪われる。
体を奪われると次に心を奪われる。

奪われたら最後、魂を引き抜かれる。

王家の血を引いていない私達には、
宝石の中で魂を眠らせることはできない。


こんな話を、君は信じるだろうか?
いや、信じることに賭けてみよう。

私は信じたのだから。


私は消して嘘を吐く人間でないことを知っていると思う。
(この手紙を信じてもらうために、理想の父親になることを誓おう)


フォスター家は、何があろうとこの宝石を守らなければならない。

陛下のために、王家のために。


私はこんなものよりもエミリーと
愛しい娘の方が大切な宝だが、石の方に
価値があると思い込んでいる連中は
大勢いる。

ではこれを何に使うのか。

この宝石をアクセサリー等で虚栄心を張ること以外に使うとすれば、その宝石の魔力を悪用することだ。


この石を守りなさい、

そして、フォスターの血を引くものと
しては憚られる事だが、父親として、
自分の命を何よりも大切にしてほしい。

愛している。


あぁそれと、この手紙を読み終えたら
記憶以外全て火にくべてくれ。

オリヴァー・フォスター 1875‐

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