~悪魔執事とお嬢様~
私はこの手紙を何度も読み返した。
許容しきれなかったせいではない。
魔法やら悪魔やらにたいしての耐性は
普通の人間よりも遥かに高いのだから。
ではなぜ、こうも何度も読み返しているのだろう。
自分でもわからない。
自分の性格と、この状況を分析して
一番考えられるのは、
『何かを知りすぎてしまったような
気がしたから』だ。
お父様の愛情に偽りがあったかなんて
思いもしないが、少なくとも多少は自分を封じていたんじゃないだろうか。
私にこの手紙を真実だと思わせるために。
手紙を書いた人間を信じられるように。
お父様は人としても父親としても素晴らしいと私は盲信的になっている節がある。
つまるところ、
お父様の計画は成功したのだ。
尤も、これを書いていたときのお父様は、
私がわずか齢16でこの手紙を読むとは
思いもしなかっただろうが。
私はお父様の望み通りに、手紙と封筒を
暖炉の火に投げ捨てた。
赤々と燃える炎が手紙に移り、徐々に
手紙は焦げていく。
宝石も暖炉の火によって姿を消してくれるのならこの事実は存在しないに等しかったのだが、そんなことはできなかった。
なぜなら、これが私の家を襲った者へと繋がる唯一の手がかりであり、また動機だからだ。
あの忌まわしい夜の元凶である呪いの石を
手元において、しかも守るなんて、本当はしたくないのだがな。
手紙が跡形もなく消えてただの
灰になったとき、私はそう思った。
さて、問題はあのネックレスをどうするかだ。
どこかへ隠すにしても、適当な場所が
思い浮かばない。
ネックレス自体は小さいので、どこにでも入るのだが…
そうだ。一先ず私のオルゴールの中にでも入れておこう。
私はすぐさまハンカチと一緒にネックレスを掴み、(元)自室へ向かった。
三階でなければすぐに移動できたのに。
私はおもむろにドアへ手をかけた。
ーーガチャッ
ドアを開けると、私が想像していたのとは
まったく別の廊下があった。
血がこびりついた黒ずんだカーペットはもうないし、夏だろうが冬だろうが関係なしに咲き乱れる花畑のような壁紙もない。
もっと控えめで目立たない、しかしそれでいて豪奢な造りの暗い色がベースの廊下になっている。
実にいい。とても気に入った。
私は模様替えした廊下を楽しみながら
階段を上るために大広間に出た。
これもまた私好みの内装に変わっていた。
ロバートアダム手掛ける新古典主義のこの邸宅には絶妙に合う模様替えだ。
態度さえよければ本当に素晴らしい執事だろうに。もったいない。
そう、美しい紅いカーペットを歩きながらそう思った。
オークの木にとても合った色をしている。
今は手にしていないが、私の杖にも相応しい床になることだろう。