~悪魔執事とお嬢様~


階段を上がり、自分の部屋だった部屋の中へ入った。

と、中にヴィル爺がいた。

そういえば、始めの方にお父様達がいた
部屋へ私物を移動させるよう命令していたな。


オルゴールがまだ回収されていないことを祈るばかりだ。



「お嬢様、何か御用がおありでしたら
私共がお伺いいたしましたのに」



ヴィル爺が困った様子で言う。

私だってこの宝石が関係していなければ
誰かに頼んで、今頃カスタードプディングを味わっている。

というかオルゴールをもってこいなんて言う命令はしない。



「いえ、少し急いでいるので。
私のオルゴールを見ていませんか?」



「少々お待ちください。えぇ、先程…
こちらのオルゴールでございますね?」



「はい、それです」



ヴィル爺はオルゴール箱を本棚から取り出した。


私はそれを受け取り、久しぶりに聞いてみようと金色の、少し錆びたネジを回した。

すると、オルゴールのコロン、コロンと
いう音が『G線上のアリア』をゆっくりと
奏で始めた。


大きな箱というわけでもないのに、よく
綺麗な曲を長い間奏でられるな。
と素直に感心する。


まあ、そうはいっても元の目的は
ネックレスをオルゴール箱に入れる事であって、オルゴールの音をいつまでも耳に木霊させる為ではない。

すぐにオルゴールを閉じて、書斎に戻った。


お父様が生きていた頃、書斎に入るときは
いつも緊張していた。


お父様の仕事の邪魔をしないように、
近くを歩くときは足音をなるべくたてず、

用があるときは静かにノックし、

お客様が書斎にいる場合は談話に差し支えないよう近寄らないのが普通だったからだ。


今はもう私の書斎なのだから何も緊張する必要がないが、今までの名残もあって、
足音をたてずに静かにドアを開けた。

バカらしい。
いつまでそんなことをしているんだ。


ため息をつきながら机にオルゴールをおいた。

そしてハンカチごとポケットにいれて
いたネックレスを取りだし、
オルゴールの中へいれる。


その間、私は息をしていなかった。

簡単な作業だとわかっていても、貴重品を扱っていること自体が既に重荷だった。


オルゴールを手紙の入っていた引き出しにしまい、またため息を吐く。



「ハァ…」



椅子に腰を下ろし私は冷めてぬるくなった
紅茶を飲んだ。
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