~悪魔執事とお嬢様~
机を叩いて私は叫んだ。
何もかもを石のせいにしてはいけない。
自分にそう言い聞かせた。
すべてに出鱈目な理由をつけるのは、
考えを放棄することに等しいからだ。
それに石とは関係なしに免れない不幸だってあったはずだ。
いやそもそも、仮に全て石のせいだったとしても、それがなんなのだ?
それがわかったとして、どうする?
石に八つ当たりして破壊するのも、
石をひたすら恨むのも根本的な解決にはならない。
「…バカ。
そんなことを考えるなら、私は今どうして
生きている?」
まただ。心と体が繋がっていない。
いや、頭と心が繋がっていない。
妙に利己的に頭が考えて、
心がそれを邪魔する。
心の主張はこうだ。
ーー私は石に八つ当たりしていないし、
心のそこから憎むというほどでもない。
しかし、それは単に相手が石でないというだけで、シリウスと契約した理由は
八つ当たりするためではないか。
考えるのはよせ。
自分が生きているのは復讐するためで
あって人生を謳歌するためではない。ーー
私自身はそれを受け入れたがっていた。
復讐をやめたくなかったからだ。
しかし“頭”は純粋で素朴な疑問を
投げ掛ける。
何のために復讐をする?
復讐をしてどうなる?それが終われば
自分は悪魔に魂をとられるのに。
なぜ自分を苦しめたやつらを倒すために、
自分が苦悩しなければならない?
…考えすぎだ。
そんな無意味な思考くらい、
放棄してもいいだろう。
消え去れ、消え去れ。
私は魔女が呪文を詠唱するかのように、
心のなかでそう呟いた。
石についての疑問も、復讐についての
疑問も、それに対する反論も
全て忘れるように。
「ふぅ…」
頭を空にするため、一度深く息を吐く。
そして、自分にとって都合のいい内容を
自問自答をした。
石は何のためにある?
ーフォスターの人間として、守るために。
シリウスとなぜ契約を?
ー彼らに復讐するために。
なぜ復讐なんか?
ー私がそうしたいし、そうしないと
死にきれないから。
お前はなぜ生きている?
ーこの人生は残されたものでなく、作為的に、復讐のために追加された人生だから。