~悪魔執事とお嬢様~

「私の調べたところによりますと、
どうやらベイリー社は不正に労働者を
仕入れ、低賃金で働かせていたようです。


低賃金と申しましても、
殆ど無いようなものですがね。


衛生環境も頗る悪く、個人的には
泥を被った方が幾分かマシです。

話がそれました。申し訳ございません。


驚くべき事に、その労働者の何人かは、
違法に売買されたと思われる奴隷でした。

確か、 現在のイギリスでは奴隷制度廃止法が数十年前に適用されたために、奴隷貿易へ関わった者は死刑に値しましたね。


他にも、救貧院から集めた未成年者も
おりました。

中でも女は特に惨たらしい目に……。

お嬢様も一緒に潜入していただこうと
思っておりましたが、しなくて正解です。


これだけでも充分ベイリー社を潰すことができるでしょうが……


そもそもMr.ベイリーが、会社のお金を
横領しておりました。

なぜそのような杜撰な脳を持って今まで大会社を維持し続けられたのか、
理解に苦しみます。


それから、今日やって来た
あの記者ですが、やはりベイリー社と
繋がっていました。

とはいえ彼個人が金を渡されただけの
ようで、新聞社そのものとは関係がありません。


以上で、報告は終了です。

なにかご質問等ございますか?」


シリウスは私が口を挟む余地もなく
早口でそう言った。

お陰で理解するのに時間が要る。


私は一旦ため息をついてから、ちょうどいい温度になったであろう机に置いていたティーカップを手にとり、飲んだ。



「……お前が少し前まで私を潜入に参加させようとしていたことに関しては後日また。

とりあえず、
報告に関しては手際がいいですね」



「痛み入ります」



「ええ、で、私からの質問はあまりないですが、ひとつだけ。

アブナーが雇われていた件については
なにかわかりましたか?」



「それに関しては、Mr.ベイリー本人から聞き出さない限りなんとも言えませんね……」



シリウスは申し訳なさそうにそう言った。

まあ、命令していないのに自ら動いただけでも、執事として正しい行動だ。


あとは私が一度ベイリーと話でもしてみればいい。


一昨々日、
ベイリーにも手紙を出していたのだ。

返事を読む限り、表向きは私とフォスター社、双方と良好関係を築きたいと嘘八百並べていた。


一週間後に食事をしないかと言う誘いにも、その不味いイギリス料理を喜んでご馳走になると。

チッ。

彼なりのジョークだろうが、極めてつまらない。

ベイリーの舌が、美味しいイタリア料理やフランス料理を良く知っていることは有名だが、あいつは美食家ではない。


なぜか?その答えは、私の歌がフォークでガラスを引っ掻いた音だと言うことぐらい詳らかだ。



例え美味しい“料理”を知っていようと、
“テーブルマナー”がなっていないなら意味がないんだからな。



「そうですか。では次彼がここへ来るときに聞きだしてみます」



「かしこまりました。
当日のメニュー等はいかがなされますか?」



「客人に出す料理はエルに作らせても構いません。

フランスかぶれのイギリス人は、
きっと味を知っていてもわかっていませんから」



「そうですか。

では、さすがにドーソンに作らせるなどと言う失態はいたしませんが、
“フランスかぶれ”の料理を作るといたしましょう。」

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