~悪魔執事とお嬢様~
さて、私はそのあと昼食をとり、その後
ヴィル爺に狐狩りをさせてほしいと願い出た。
銃の貸し出しに関しては、例えお父様であろうと一言ヴィル爺に言わないといけなかったからだ。
結果は、なんとか許しをもらえた。
「今日、歌とダンスと絵画のレッスンを
真面目に受けられるのであれば、いくらでも狐の腹を弾丸で抉り出して頂いて結構です。
ええ、片側の視界をやや遮られた
アーノルドを使い、やっとお嬢様についた血を洗いきれた今、またその手を狐の血で浴びせ下さい」
と、嫌みたらたらで。
そもそも私はレッスンを厳かにしたり、
生半可な気持ちでやったことなど一度もないのに。
そう呟いたら、
「私のレッスンを真剣に受けてその溺れ死にそうなガチョウの鳴き声とは恐れ入ります」
と今度は後ろにいたシリウスに嘲笑された。
ヴィル爺はおもむろに頷き、さらに
歌のうまかったお母様を引き合いに出す。
前門の虎、後門の狼とよく言うが、
私の場合、前門の嫌み、後門の皮肉だった。
あのペアを一緒にしては絶対にダメだ。
と心の底からそう思う。
現に今も、私は二人から歌のレッスンを
受けていて、何度も注意されているのだから…
「お嬢様、ふざけていらっしゃるので?」
片方の眉をヴィル爺がつり上げる。
「至って真剣です」
「では、楽譜を読むことが出来ない、等と言うことはございませんか?」
目の前に提示された楽譜をたたくシリウス。
「ハァ?普通に読めますが。
これがドで、これがミ、これがソ」
私は試しにその音を「アー」に置き換えて歌ってみた。
「それをドミソと認識しているのであれば
あなたは何か重い病気を患っています」
「では本気で何か歌ってくださいませ。
爺の耳が破壊されない程度に」
この二人をなんとか納得させようと、
私は“歓喜の歌”を歌ってみた。
もちろん本気で、
素晴らしい歌声と言えるものを。
偽物のナイチンゲールや溺れ死にそうな
ガチョウでなく澄んだ声を持つ鵤といえるものを!
「フン、どうです?
少しは上手くなったはずですよ」
「なぜその歌を歌おうとお思いになったのでしょう?いいですか。
あなたの歌声はドーソンの料理です。
メイスの掃除です。
メイザース達の談笑です。
ヴィルさんの武術です。
私のおだてるという行為です」
「ええ。
ですが、そう悲しむこともございません。
人間誰しも出来ないことの一つや二つ
ありますから。
気を強くお持ちください。
我々もできる限りの事は致します。
__精々、ガチョウからカラスになるレベルまではなんとしてでも…」
よくわからないが励まされた。
ものすごく複雑な気分だ…
音痴な事に代わりはないがなにもそこまで言う必要はないだろう。
寧ろ私の耳ではなく二人の耳がおかしいんじゃないかと思う。
明らかに普通に歌っているのに。
シリウスとヴィル爺は早めに耳の検査を
した方がいい。
どちらも歳はかなりいっているしな。