~悪魔執事とお嬢様~
しばらく考えてからようやくわかった。
素人の殺し屋かなにかがここへ来たのだ。
ベイリーは自分から食事会を欠席するのが嫌らしい。
「シリウス、ネズミの巣を見つけるためにも一匹くらい逃がしておきなさい。
そしてネズミには、食事会へ参加するようにと伝えるように」
私は飲み損ねたワインをもう一度持ち上げて、グラスに口をつけた。
「I got it,mine lady.
…あぁ、パンは“焼いたもの”と
“そのまま”、どちらがお望みですか?」
「そうですね、常識的に考えて、
“焼く”のが一番でしょう」
「フッ、かしこまりました」
シリウスはそう笑って部屋から出ていった。
“パン”をなにも言わず送りつけてきた
無作法なベイリーには、
“焦がしたパン”を送り返すのが一番だ。
私はまた一人で食事を続けた。
と、ドアの向こう側からドタドタと
足音が聞こえてきた。
セーラかエルが走り回っているのか?
食事くらい静かにさせてくれ。
ここは食事中にペチャクチャと喋りまくるフランスではないんだぞ!
若干苛立ちながら耳を済ませた。
ーーバンッ!
ドアが勢いよく開く。
「いい加減にしろ、うるさいぞ!」
私はナイフとフォークを置いてそう
怒鳴り、扉の方を向いた。
私の予想は外れていた。
足音を鳴らしていたのは、セーラでもエルでもない。
ベイリーが私を殺すように雇った殺し屋だった。
全く、使用人全員が相手をしておいて
何をやっているんだ。
私は胸に着けていたテーブルナプキンを取り外し、やや乱暴に机へ置いた。
そして代わりにナイフを右手で掴み、
目の前の男に向けて威嚇する。
男は幸いなことに銃を持っていなかった。
私よりも鋭いナイフを持っていただけだ。
私は一歩、二歩、と
慎重に後ろへ下がった。
男も同じように慎重に詰め寄ってくる。
ナイフを投げるべきだろうか。
いや、当たる可能性は高いとしても
危険すぎる。