~悪魔執事とお嬢様~


なにか別の武器でもあれば……
私は屋敷に置いてあるものを思い出した。


こんなときに限って碌な物が思い浮かばない。


キッチンは?ホールは?応接間は?

ビリヤードルーム、バスルーム、大広間、
子供部屋、書斎、談話室、居間、スモーキングルーム……


そうだ!ビリヤードルームだ。


ダイニングルームから近いし、何よりあの場所にはウェブリー・リボルバー(イギリスの拳銃)が置いてある。

お父様が趣味で(英国紳士らしさを見せるために)置いていたことに感謝しなければ。


私は男の目を見てこういった。
あまりなれないが口調を女っぽくして。



「ベイリーにたのまれたんでしょう?」



「言うわけねーよ」



「彼はきっと払わない。ケチだもの」



「いいやそんなこたぁねえ」



「そうかしら?」



一歩ずつ下がっていきながら、男が油断するよう、できるだけ弱い女性に思わせるために。



「ああそうさ」



「それじゃ彼はなんて?
いくら払うと言ったの?」



「あんたのような美人を殺すのにゃ
惜しいと思うが、大金だからな」



「まあ、大金なの?それならなおさらあり得ないわね」



「なぜそう思う?」



「さっきいったわ、彼、ケチだもの」



「嘘言ったってダメだ。
……悪く思うなよ」



今だ!私の直感がそう告げた。


私はナイフを投げ付けて、全速力で
ビリヤードルームへ走った。

スカートを持ち上げ、
後ろを見ないように。

男の肩でもいい、どこかに刺さってくれていれば時間稼ぎにはなる。


あと少しだ、ビリヤードルームのドアにてをかける。



「待て!」



残念なことに男はすぐ後ろにいた。

私はさっとビリヤードルームの中に入り、
扉を閉めて鍵をかける。

ーードンドンドン

すぐに壊れてしまいそうなほどのけたたましい音が鳴った。

ドアが破られるのも時間の問題だ。


私は急いで銃と弾を探した。

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