~悪魔執事とお嬢様~
ヴィル爺は明らかに不機嫌だった。
言いたいことはよくわかっている。
ヴィル爺の理想のレディは
人を殺さないし、そもそも“殺す”何て
言葉をストレートに言わない。
ヴィル爺の求める“お嬢様”は、
「先程はあまりにも突然でしたし、
お食事の邪魔をされた事に対して義憤に
駈られてもいましたので、
どのみち彼は深い眠りに陥っていたと思いますわ」
と答えるお嬢様らしい。
もちろん私はそんな頭が完全にお花畑な
お嬢様にはしつけられていないので、
わざわざ重苦しい丁寧に丁寧を
重ねたような言い方はしない。
精々私ができる言葉遣いというのは、
ストレートな言葉の上にそっと丁寧と言う名のヴェールをのせることぐらいだ。
「次からは、真っ先にお逃げになるか
我々使用人に助けを求めてくださいませ。
わたくしは銃等の武術こそお嬢様の歌と
同じぐらい才能がありませんが、
以前申しました通り武闘には
愛されておりますので、
お守りすることぐらいはできます」
「そうですか」
私は生返事して、別の事を考えていた。
武闘に愛されている等と言う話は、一度も聞いたことがない。
私が帰郷して話を聞いたときも、
ヴィル爺はあえて深く話さなかった。
なぜだろうか。
私は時間の狭間にいたシリウスのように
人の心を読むことはできないが、
予想することぐらいはできる。
が、元々無口で口を開いたと思えばやれ
私がお嬢様らしくないだの、歌が下手だのとしかいわないヴィル爺だ。
予想もなにもなかった。
「お嬢様、聞いておられますか」
ヴィル爺が呆れた様子でそう言った。
ヴィル爺はまだ懇々と真のレディなら
どうすべきかを語っていた。
しかし、16にもなる娘に
__私は結婚するつもりなどないが普通なら社交界デビューをして上手く行けば近いうち婚約できる娘に__
そんなことを説き伏せても遅いだろう。
私でなく誰か知り合いの娘に延々と説教をしていればいいのに。
「聞いてます聞いてます。
レディになるためには私の好み自体変えろと言うのでしょう?」
「ええ、そしてレディらしく美しく着飾り、
舞踏会に参加するのが理想です」
「それで結婚相手を見つけろと?」
「もちろんでございます。
それとも、許嫁になりかけたあのお方と
ご結婚なされますか?」
段々私の方が声を荒らげてしまっていた。
と、そのとき、メイザース兄弟が
私が食べ損ねた食事を新しく持ってきた。
さっき嗅いだエルの料理ではなかったのが
救いだ。