~悪魔執事とお嬢様~
私が生きているのは(認めたくないが)
シリウスのお陰で、そうなったのは
奇跡のお陰なんかじゃなく、
私の意思であり、必然なのだ。
しかし、そんな話を契約上ヴィル爺に
話せるわけもなく、私はただ社長や主人のご機嫌とりをする部下のように
神妙そうに頷いた。
これはお父様が忙しいときに
よくやっていた方法で、
お母様が愚痴を言ったり私が話しかけたりすると、さも話の内容を事細かに
聞き入っているかのような顔つきでいた。
本当に聞いているときもあるが、
実際は殆ど聞いていない。
忙しいときのお父様にとって、私達の声は
小さなボリュームで音楽を聞きながら
仕事をしているのと大差ないようだった。
とはいえ、最終的に時間がとれるとヴィル爺に私たちが話していた内容を聞いていた
みたいなので、私のようないい加減ではなかった。
私が適当に頷いていることで、
しばらくはヴィル爺も静かになったが、私はここで大きな失敗をした。
ヴィル爺が私に皮肉をいっていても、
私は頷いてしまったのだ。
これにヴィル爺は気づいてしまい、
お父様の手本はよいところだけにしろと
言われた。
やれやれ、
ヴィル爺は相当ご立腹のようだな。
早く食べ終わって部屋にいってしまおう。
残った料理を無理矢理口に詰め込み、
ワインを喉に流し込むと、テーブルに
ナイフとフォークを揃えて置いた。
目を瞑って人の話を聞くことの大切さを
力説するヴィル爺の横をそっと通り抜け、
自分の部屋へ向かう。
が、扉を開けてまだ二秒のところで気付かれた。
「お嬢様、まだ話は終わっておりませんぞ」
「今日のヴィル爺はとことん静かですね」
私は横目で皮肉りながら絡まれる前に
そそくさとダイニングルームから出た。
そして自分の書斎へ__お父様の元書斎へ戻り、椅子に腰かける。
途端に孤独と無力感が私を襲った。
これでは私が逃げ出したみたいだ。
今の私がお父様なら、どうしているだろう。
きっと、パイプを加えながら唸り声をあげ、腕をくんで頭をスッキリさせるために紅茶を啜る。
紳士らしく、優雅に、それでいて力強く行動するはずだ。