~悪魔執事とお嬢様~
フォスター社に余裕ができたらお父様の願いを叶えて差し上げよう。
そう思い、本を一通り見て本棚に戻した。
その途中、ふとブラッド・ジェムのことを思いだした。
ベイリーからの殺し屋と思い込んでいたが、もしかすると奴等なのかもしれない。
これもまたアーノルドを心配したのと同じように杞憂に終わるだろうが、引き出しを開けてみた。
きれいに装飾されたオルゴールが一ミリも移動せずそこにいた。
私はすでに安堵しながら、まるで数年ぶりに開けるかのような気持ちでオルゴールを開く。
小箱のなかに入ったオルゴールのとなりに、小さく余白があり、そこにハンカチが添えてあった。
その下にブラッド・ジェムがあるはずだ。
ハンカチを、時計職人のような気持ちで慎重にどけた。
中身がない。
私は驚いて声もでなかった。
小箱は確かに動いていなかったし、
杞憂で終わると思っていたのに。
私は引き出しを最後まで開けて念入りにしらべ、獲物を狙う動物のような餓えた目で何度も小箱を見つめた。
何度見てもない。
視線を移してまた戻せば、
ブラッド・ジェムが戻っていることを祈った。
しかし、やはりない。
お父様が命を懸けて守りきろうとしたであろう石を(最終的には家族を選んだようだが)
失くしてしまったことに、
私は許容しきれずに、空のオルゴールを見つめた。
と、そこにシリウスが入ってきた。
まるで私が絶望することを待っていたかのように。
「…なんの用だ?」
「紅茶を持って参りました。
何かお考え事をなされているようでしたので」
「それはご苦労。
しかし悪いが、出ていってくれ。
今、少し忙しい…ので」
頭を抱え、引き出しをすぐに戻す。
シリウスに話してもよかったが、
悪魔と呪われた石を近づけたくなかった。
「まだわたくしへ秘密にしておくのですか?
あの石の存在を」
シリウスは冷ややかな笑みを浮かべてそう言うと、空いた手で懐からネックレスを取り出した。
なぜ、彼が持っているのだろう?
シリウスは固まって動かない私に一歩一歩近づきながら話し続ける。