~悪魔執事とお嬢様~
「『なぜ?』と言いたげな顔をしておいでですね。
では、答えましょう。
この石の存在は、お嬢様が手紙を見つけるよりも前に気づいておりました。
はじめにこの部屋へ入った瞬間に」
「…入った瞬間に?」
その時、アーノルドが唸りをあげた。
なぜだろう。
シリウスはともかく、アーノルドは
シリウスへの警戒を最初から解いていた。
それなのに、今は酷く怯え、警戒している。
「ハァ。まずはその犬を私とお嬢様の会話から外していただきましょうか」
シリウスがそういうので、私は仕方なくアーノルドを書斎から出ていかせた。
アーノルドはしきりに嫌がり、私を心配そうに見つめる。
アーノルドをなんとかドアの前に連れてから、私は「待て」をさせ、ドアを閉めた。
「大好きなアーノルドを外に連れ出させてくれて“ありがとう”。
そうする理由はもちろんあるのでしょうね?」
私はシリウスからネックレスを取ろうとした。
が、シリウスは腕をヒョイと私に届かない位置へあげた。
私の背は低くすぎて、あまりにも不利だ。
真っ赤なネックレスは遠すぎて、
私にはまるで赤い星のように見えた。
「この石は、我々悪魔の石ですね。
穢らわしい人間に盗まれ、消えていたと思っておりましたが、まさか王族の魂を保管していたとは」
シリウスが笑うと、ネックレスに飾られた宝石がギラギラと光った。
気味が悪い。
まるで宝石が生きているかのようだ。
「この石を、あなた方一族は、どうするおつもりだったのでしょう?」
ネックレスを見上げながらシリウスが言う。
宝石と会話をしているかのようなその眼差しに、私は恐怖と疎外感を抱いた。
彼の周りだけ、別世界のような気がした。
恐怖を悟られないよう、傲然たる振る舞いをして私は答える。
「それはあくまで王家の所有物。
我等フォスター家の者は、その宝石を守るだけです」
「悪魔に盗られておきながら、守る等とよく言えますね」
その言葉を聞いて、私は口を開いた。
が、反論が思い付かない。
私は否定しないで、「ええ、確かにそうですね」と認めることにした。
それを聞いたシリウスは、(何に勝ったつもりでいるのか知らないが)勝ち誇ったかのように薄ら笑う。
私はそのまま“ただ”と付け加えて
こうもいった。