~悪魔執事とお嬢様~
「お前は私の執事であり、契約上私の所有物です。
私がそれを返せと命じれば、お前はブラッド・ジェムを返さなくてはいけなくなる。
ただの悪魔に盗られたのなら私の失態でしょうが、盗った相手が自分の執事なら、失態でもなんでもありません」
シリウスは笑うことをやめなかった。
その不気味な笑みをやめてほしかった訳ではなかったが、私はやめると思っていた。
ここ数日でこの悪魔の性格は大体わかってきたと思っていたが、どうやらわかっていたのは上っ面だけのようだ。
「ええ、その通りです。
しかし、貴方も少しは慎重になりませんと。
このブラッド・ジェムは、貴方が思っているよりも遥かに価値があり、危険ですから」
シリウスはここでブラッド・ジェムを下ろして「慎重に、大切に守るようにお勧めいたします」といいながら私の手に持たせた。
そして、何事もなかったかのようににこりと微笑んだ。
それで私を安心させたつもりのようだが、私としては、なおのこと不気味に思えた。
むしろ、この爽やかな微笑みの方が、さっきの不気味な笑みよりもずっと不気味だった。
私には彼が何をしたいのかわからないし、なぜそれで私が安心すると思ったのかもわからない。
微笑んでいるシリウスが、とても怖ろしかった。
「次からはどこぞの悪魔に盗られないよう注意します」
オルゴール箱にブラッド・ジェムをしまいながら私はそういった。
シリウスはなおも笑いながら紅茶を机にそっと置いた。
私はそれを見届けると、椅子に座り、紅茶を飲んで一息ついてから頭のなかで状況を整理する。
ブラッド・ジェム__悪魔の石とはいったいなんなのだろうか。
お父様の手紙だけが真実ではないような気がした。
お父様が嘘をついているとは思っていないが、お父様の知らない事を、シリウスは知っているのではないかと思ったのだ。
私は大きくため息をついた。
せっかくブラッド・ジェムのことを忘れかけていたのに、また思い出すはめになった。
オルゴール箱に入っているのが分かれば、それでよかったのに。
「シリウス、この石について知っていることをすべて教えなさい」
引き出しを閉めて机に肘をつき、指を絡め、両手に顎をのせてそう聞いた。
以前シリウスに私の存在をいつ知ったか質問してはぐらかされたが、
今回は、はぐらかされて終わりにしたくない。
「全てですか。欲張りですね。
わたくしもあの石についてあまり存じ上げませんし、全てはお話できませんが…」
この際、少しでも情報がもらえるなら、はぐらかされないのなら、それでいい。
私はそう思い、瞬きしながら頷いて見せ、片手で構わない、というかのように手を払った。