~悪魔執事とお嬢様~
「では、ほんの概要だけ。
まず、あの石は先程も説明しましたように、元は我々悪魔が所有していた石です。
強い魔力が込められていますので、魔法を使った際に魔力を増加させることができます」
「それがお前のいっていた価値、ですか?」
「ええ。ただ、ブラッド・ジェムは所有者を選ぶ節があります。
恐らくブラッド・ジェムの前の所有者であった悪魔から、今の王家に所有者が移り変わったのでしょう。
所有者が人間に変わるのは、長い歴史から見ても異端な事です」
「では、先程言っていた盗まれた、というのは?」
少し考えてから私はそう言った。
「その言葉どおりでございます。
当事所有者でした悪魔が人間に変身していた時、一人の人間が宝石を盗み出したのです。
その人間は、ブラッド・ジェムを目的としたわけではなく、単に宝石が目当てだったのでしょうがね。
そして長い年月がたち、魔女や魔術師たちに渡り、現在は王家の手に渡った、という次第です」
「悪魔も人間と相変わらぬ、いえそれ以上の“優秀さ”ですね。しかも人間に盗まれるだなんて、どれ程聡明で賢いんだか」
私は鼻をならせて答えた。
いつも、悪魔という生物がさも人間より優秀で賢く、最上の生き物だと自慢げに話すシリウスのプライドを揺すぶってみたのだ。
「そちらのジョークは褒め言葉と受け取っておきます。
いつかお嬢様も悪魔の美しさをお知りになるでしょうし」
シリウスは動じなかった。
それどころか、自分の種族を美しいと評していた。
全く、私ですら人間の事を美しいだなんて言わないのに…と呆れてしまう。
人間に美しさがないとは言わないが、どうしても醜さの方が際立ってしまうのだ。
「ジョークの通じないつまらない男ですね。
もし仮に悪魔の美しさを私が知ったとしたら、それはきっと相当精神を病んでしまった時でしょう」
私はつまらなそうに手を崩し、椅子に背を預けた。
そして、また紅茶を手にし、飲み干した。
「ではせめて、私の美しさを…」
「容姿の話だとしたら十分美しいですよ。
よかったですね」