~悪魔執事とお嬢様~
シリウスの自意識過剰な発言を全て言わせる前に、私は早口で答えた。
すると彼は困り果てたような、呆れたような顔で口を開いた。
しかし、何を思ったかすぐに口を閉ざし、
またもや不適な笑みを浮かべて、私が飲み干し空になったティーカップを下げた。
そして帰り際、
「それにしても今日のお嬢様はずいぶんと
レディーでいらっしゃいますね」
と皮肉をきかせながらシリウスは書斎をあとにした。
あの態度には毎度毎度怒りを禁じ得ないが、今日はヴィル爺やシリウスに小バカにされたことよりも、ベイリーの方が何十倍も腹が立った。
どこまで私を虚仮にするんだ。
安く雇った殺し屋を私の屋敷に呼ぶこと
事態、失礼極まりない。
(そもそも殺し屋を寄越すのも失礼だ)
せめて、__私はその手の人間のことは知らないが__使える奴を雇ってほしい。
尤も、我が屋敷の盾を打ち破る者はそういないだろうがな…。
その後私は、ドアの前に待たせていた
アーノルドとともに寝室へ行き、
セーラを呼んで寝巻きに着替えた。
髪も碌に梳かさず、さっさとベッドに入って精一杯伸びをする。
座ってばかりだったせいか、体がほぐれた気がした。
「お嬢様、明り、消していいですか」
「ええ。おやすみ、セーラ」
セーラは蝋燭の火を吹き消して、部屋からでていった。
私はそれを見届けると、ゆっくり目を閉じて、深い眠りに落ちた。
*****
一日目、シリウスが私を起こしに来たと
思えば、ウジ虫を見るかのような
目付きをし始めた。
何がそんなに不満なんだ。
と聞いてみれば別に。とそっけなく返す。
私はため息をつきながら何が原因か
考えてみた。
しかし、考えはじめる前に、
隣になにか違和感を抱いた。
確認してみると、隣にアーノルドがいる。
いつもならアーノルドは、自分専用の
クッションの上で寝ているのだが、
この日の朝は私の左隣にいた。
何とも凛々しい顔で眠っていた。
少し驚いたが、何が原因でシリウスの
機嫌が悪いのかわかって少しほっとした。
私はアーノルドの頭を優しく撫でて、
そして首に手をまわした。
眠っているアーノルドに自分の頭を
すり付け、左手で毛並みを整える。
シリウスは、その些細な嫌がらせに
思いの外応えたのか、仕返しをするかのように強引に掛け布団をめくった。