~悪魔執事とお嬢様~

シリウスの自意識過剰な発言を全て言わせる前に、私は早口で答えた。

すると彼は困り果てたような、呆れたような顔で口を開いた。


しかし、何を思ったかすぐに口を閉ざし、
またもや不適な笑みを浮かべて、私が飲み干し空になったティーカップを下げた。

そして帰り際、

「それにしても今日のお嬢様はずいぶんと
レディーでいらっしゃいますね」

と皮肉をきかせながらシリウスは書斎をあとにした。


あの態度には毎度毎度怒りを禁じ得ないが、今日はヴィル爺やシリウスに小バカにされたことよりも、ベイリーの方が何十倍も腹が立った。


どこまで私を虚仮にするんだ。

安く雇った殺し屋を私の屋敷に呼ぶこと
事態、失礼極まりない。

(そもそも殺し屋を寄越すのも失礼だ)


せめて、__私はその手の人間のことは知らないが__使える奴を雇ってほしい。


尤も、我が屋敷の盾を打ち破る者はそういないだろうがな…。



その後私は、ドアの前に待たせていた
アーノルドとともに寝室へ行き、
セーラを呼んで寝巻きに着替えた。

髪も碌に梳かさず、さっさとベッドに入って精一杯伸びをする。


座ってばかりだったせいか、体がほぐれた気がした。



「お嬢様、明り、消していいですか」



「ええ。おやすみ、セーラ」



セーラは蝋燭の火を吹き消して、部屋からでていった。

私はそれを見届けると、ゆっくり目を閉じて、深い眠りに落ちた。



*****


一日目、シリウスが私を起こしに来たと
思えば、ウジ虫を見るかのような
目付きをし始めた。

何がそんなに不満なんだ。
と聞いてみれば別に。とそっけなく返す。


私はため息をつきながら何が原因か
考えてみた。

しかし、考えはじめる前に、
隣になにか違和感を抱いた。


確認してみると、隣にアーノルドがいる。


いつもならアーノルドは、自分専用の
クッションの上で寝ているのだが、
この日の朝は私の左隣にいた。

何とも凛々しい顔で眠っていた。


少し驚いたが、何が原因でシリウスの
機嫌が悪いのかわかって少しほっとした。



私はアーノルドの頭を優しく撫でて、
そして首に手をまわした。

眠っているアーノルドに自分の頭を
すり付け、左手で毛並みを整える。


シリウスは、その些細な嫌がらせに
思いの外応えたのか、仕返しをするかのように強引に掛け布団をめくった。

< 179 / 205 >

この作品をシェア

pagetop