~悪魔執事とお嬢様~
あれは惨殺な猟奇事件だろうに。
いや、そもそも死体はきれいに残っていないのかもしれない。
もし、殺されたあともわからないくらいに
死体が焼けていたら?
火傷だらけの死体など考えたくないが、
放火事件としかかいていないあたり、
そうなのだろう。
段々とまた、少女の死体が脳裏に蘇り、
更には死体が焼けて焦げる姿まで想像してしまった。
私は自分で作り出した架空の哀れな焼死体を忘れるため、紅茶を一口乱暴に飲んだ。
その後、顔を洗い、シリウスを追い出してからセーラに着替えを手伝ってもらい、
朝食を食べた。
今日もまたつまらないレッスンが延々と続くのだろう。そんな風に思いながら。
実際、この日はつまらいレッスンと、
つまらない執事(バトラー)と家令(ハウススチュワード)に小言を言われる一日で終わった。
あと数日で授爵することを理由に、
それはもうとことんヴィル爺に色々言われた。
他にも、ベイリーと食事をする日が日曜日なので、今度こそは教会に行ってくださいとも言われた。
いままでは私の体を考えてなにも言わなかったらしいが、乗馬や狩猟をやりたがるぐらいなら大丈夫だと思ったらしい。
しつこく頼んだことが災いしたようだ。
ただ、不思議なことに、シリウスはあまり反応をしなかった。
悪魔と契約しただけの私はよくわからないが、悪魔が教会へ行くなんて聞いたことがない。
だから拒否反応を示すかと
思っていたのに、本当に颯爽としていた。
私の行っている教会の神父様は、恐らく
今の時代数少ないエクソシストではない。
が、それでも悪魔が教会にだと?
人によってはわからないかもしれないが、
私にとって悪魔が教会に行くというのは
エルフが街中でサックスを吹きながら
社交界ダンスを踊っているようなものだ。
とてつもなく違和感がある。
聞くまでして知りたくはないが…
行くかどうか、行ったとしてどうなるかどうかは当日次第だ。
とりあえず、これで教会へいく楽しみができた。
つまらない今日に、ささやかな楽しみを与えてくれた主へ感謝したい。
と思うほど、この日はつまらなかった。
いや、この日に限ったことではない。
それから少なくともそれから1日と半日は、
手紙のやり取り、ベイリーの不正の証拠の確認などを除けば、
この木曜日と何ら変わりなかった。
しかし、今日、4/14の土曜日の午後は、
それまでのつまらない数日にピリオドを打とうとしていた。
今日は領のことを把握するために、私のすんでいるカントリーハウスから、ウォリックシャーのなかでは恐らく一番遠い別荘へいっていた。
すると、小言以外は石のように重くなって開かない、ヴィル爺の口から思わぬ話が飛び出た。
「お嬢様、今日、銃の手入れと馬の準備を
しておきました。
昼食を終えてから、ご自由に狐を殺してくださいませ」