~悪魔執事とお嬢様~
ヴィル爺はまたもやフッと笑って見せた。
私はヴィル爺の考えに気づき、小さく舌打ちをした。
今の今まで忘れていたが、お父様にもお母様にもヴィル爺にも毎日のようにからかわれていた時期がある。
仕方なくジュリアンの名前を変えようとしても、彼女は“ジュリアン”という単語にしか反応しなくなっていた。
ヴィル爺はこの事をまた引っ張り出そうとしているのだ。
「…別にいいじゃないですか。
世の中に一匹ぐらいは牝のジュリアンが存在しても」
そう、私は素っ気ない態度でジュリアンに飛び乗った。
乗馬用の長いスカート__まるで枯れた花弁のようだったスカート__が、丁度いい長さになった。
鐙に足をかけず乗ったために、
ジュリアンが少し驚いて動いた。
問題はなかったが、一応ジュリアンの首に手を添え、安心させた。
よし、後はアーノルドだ。
私が今から行う狐狩りは、一般的なものではない。
狐狩りは普通、大勢でするものだ。
狐を何十頭もの犬が追いかけ、最後に人間が撃つ。
時期も違う、人数も少ない、犬も優秀だが一匹。
唯一同じなのは、ヴィル爺が朝のうちにこれから向かう場所の巣穴を埋めたことぐらいだろうか。
狐が何匹もいるのは確かだが、さすがに町や村の近くで弾丸の音を響かせるわけにはいかない。
仕方ないが、我が領地の森で行うことになった。
着いたら何をするか、など、色々想像しながら私は準備が整うのを待った。
シリウスとヴィル爺が乗る焦げ茶色の馬が二頭と、しばらくしてから元気よく走ってくるアーノルドが見えた。
「さて、アーノルドも来たようですし、いきましょうか」
私はそれを言うと同時に、ジュリアンの腹を足でキックした。
ジュリアンはそれに反応してサッと走り出した。
足が地面を蹴る蹄鉄の音が鳴り響き、風を切る。
スカートが少し舞い上がったが、私は気にしないで走らせ続けた。
後ろからヴィル爺とシリウスの乗っている二匹の馬と、アーノルドの足音が聞こえる。
私はとても気分がよかった。
ウォリックシャーへ向かうときには、あまりスピードを出せなかったのだ。
窮屈なレッスン続きのレディな世界から抜け出せた気がした。
旅人にでもなった方が人生は楽しいのかも知れない。
私とアーノルドたちは小さな町を駆け抜け、休むこともなく森に向かって走り続けた。