~悪魔執事とお嬢様~
狐狩りに夢中になりすぎて、時間を忘れたことを今さら後悔した。
明日は楽しい楽しいベイリーとの優雅な茶会だというのに…。
今すぐジュリアンの疲れきった足を酷使して帰ったとしても、きっとベイリーは言うだろう。
「あぁ、今日はいい天気で紅茶を楽しめそうでしたのに、すっかり曇りですな」と。
私は不機嫌になりながら明かりがないか目を凝らした。
淡いオレンジ色の光が太陽と共に少し遠くの方で揺らめいていた。
あれか。そう一言呟いて、ジュリアンを向かわせる。
暗くて足場の悪い道を歩かせ、馬小屋に三頭を置いてからその村のパブに入った。
パブリック・バーとサルーン・バーの区分もされていない酒場だ。
そこの主人__まるで大根のような細くて白い顎髭をはやした老人は、 犬を同伴させていることへ不機嫌な態度をとったが、
エールとクリスプを一人分頼んで大体4人分を払うと、すぐに上機嫌になった。
(そのあと適当に好きなものをヴィル爺とシリウスに頼ませようとしたが、どちらも必要ないと口を揃えて言った)
出された油でぎとぎとなクリスプをアーノルドに食べさせ、あまりなれないエールを一口飲んだ。
サイダーなどの果実酒とは違った。
たまにはこんな日もいいだろう。
それからゆっくりと、明日、予定通りの時間に家につく方法を考えることにした。
この世で一番速い移動手段は、馬ではなく汽車だ。
今から向かえば充分に間に合う。
そしてメイザース達をこっちへ送らせれば、ジュリアンと他二頭の馬、さらに馬車もかえって来るはずだ。
アーノルドを乗せられるかは怪しいが、最悪は人数…いや、犬数分払えばなにも言われないだろう。
そう思い、シリウスとヴィル爺に提案してみた。
「その犬…アーノルドを列車に乗せる必要が本当にあるでしょうか。
別荘を管理させている者にしばらくアーノルドを預けた方が、お金の節約にもなりますし」
私の提案に賛成したかと思えば、シリウスはすぐに別の案も出してきた。
まあそれでも悪くはないのだが…
「わたくしも、アーノルドには可哀想ですが、Mr.シリウスに同感ですな。
その方が確実でございます。
お嬢様が彼をよく可愛がっておられるのは存じておりますが、今回は時間がありませんので」
私は一旦ため息をついてからアーノルドを見つめた。
それからもう一度息をはいて、渋々頷く。
「仕方ないですね」
「当たり前の…失礼いたしました、
懸命なご判断に感謝いたします」
全く、この男は私を苛立たせることしか考えていないのだろうか。
ヴィル爺がシリウスを気に入ってしまったために、当初の思惑と大分違う生活になってしまった。
私の期待した、「自分の主人への態度がなっていない」と叱るヴィル爺は、どこにも存在しない。
寧ろ、シリウスの悪い点を増長させてしまっている。