~悪魔執事とお嬢様~
一方で、勝敗を見届けた私は、飲み終えたジョッキを机に置いて、店を出る支度を始めた。
アーノルドはそれに気づいてか、自身の体をムクッと起き上がらせた。
なぜみんなあんなにも熱狂的に賭け金を出すのだろうか。
いい酒の肴になったのは確かだが、あんなに賭けようとは思わない。
私ならきっと、賭け金の2ポンドは2杯目のエールとクリスプに使うし、命の危険を感じるまで飲み干すなんてしない。
そこが私と彼らの違いだろうと、私は思った。
ただし、あの賭けがもし、酒の強さを競うのではなく自分がチェスで競うのだとしたら、間違いなく5ポンド自分に賭けるだろう。
外に出てしばらくすると、馬3頭の手綱を引いて、シリウスは連れてきた。
私は無言でジュリアンの手綱を受け取った。
ヴィル爺も同じように受け取り、ニヤリと笑ってもう片方の手をだした。
「賭けは私の勝ちですかな、Mr.シリウス。
さあ、約束の2ポンドを」
それを聞いたシリウスは、諦めたかのように微笑んで、懐から2ポンドをヴィル爺の手の中に落とした。
私がエールを飲んでいる間に何をしているのだか。
2ポンドという大金をあっさり賭け金に変えるような執事と元執事がいるだなんて信じられない。
「二人とも、あの酒飲み勝負に賭けていたんですか?」
私は呆れながらそう呟く。
しかし、シリウスは首を降って残念そうに言った。
「いえいえ、あの二人の勝敗は最初から私もヴィルさんも女性だと睨んでおりましたから、賭けにはなりませんでした」
ヴィル爺もそれに同意するかのように頷き、鋭いその目でパブを見た。
「私たちが賭けていたのは、お嬢様があの二人の勝負に興味を示すか否か。
私は興味を示す、Mr.シリウスは興味を一切示さない。
見事お嬢様は食い入るように見つめておられました」
2ポンド渡された方の手を握りしめ、ヴィル爺は財布にしまいながらそういった。
私は、自分の主人を使って賭け事をするなと言いたいところだったが、あまり本気で窘めたりはしなかった。
確かに、シリウスもヴィル爺も
(一応好きなものを頼んでいいといったのだが)
なにも頼まず暇そうだったから、少しぐらいはいいだろうと思ったのだ。
いい気はまったくもってしないが。
私は静かにため息をついて、ジュリアンの背中に乗り、出発した。