~悪魔執事とお嬢様~
別荘に着いた私達は、ジュリアンと他の馬を馬小屋に繋ぎ、中に入った。
アーノルドの足をヴィル爺が持ってきた濡れたタオルで拭いてやっていると、しばらくしてここで雇っているメイドが出迎えた。
「お帰りなさいませ。もう少し早くお帰えりになると思っておりました」
「すっかり夢中になってしまいましてね」
私はそういってから、今すぐ帰る棟を彼女に伝えた。
すると彼女は、困り果てたような、呆れたような顔でため息をついてこう言った。
「まるで嵐ですね」
私はあえて聞き返さずに、荷物と馬車の準備を彼女に頼んだ。
シリウスとヴィル爺もそれを手伝おうとしたが、人数は充分足りているみたいだった。
私のすんでいる屋敷よりも、こちらの方が何倍も使用人が多い。
私は安心して近くの椅子に腰掛け、用意が出きるまでくつろいだ。
私がここへ足を運んだ回数は、そう多くない。
お父様は毎シーズンそれぞれのカントリーハウスで集まって、本物の狐狩りやキジ撃ちをしていたが、私は全くと言っていいほどそういうものに参加できなかった。
だからここは馴染みが浅い。
それなのにあのメイドは、まるで昔から私といたかのように馴れ馴れしいのだ。
いや、あのメイドがというより、ここ全体の人間が全員馴れ馴れしい。
もちろん、あのバカクィンテッドと比べれば、充分に身の程を充分わきまえているが、やはりそれにしてもスキンシップが多い。
言うなれば、“田舎者”。
その言葉が一番彼らに合う気がした。
鼻に煤を着けたメイド数人が、私達の荷物を持ってきながら楽しそうに談笑している。
そんな姿を見て、私はフッと失笑し、なんだ、あまりあっちと変わらないじゃないか、と思った。
やがて、そんな風に笑っている私に気づき、メイドたちも微笑み返しながら、彼女たちはこちらに早足で来た。
「お荷物はこちらで全てでしょうか?」
「ええ、ありがとうございます。
あぁ、ついでに、よく吠える荷物をひとつ置いていきますので、そのお世話も頼むことになりますが…」
シリウスが荷物を一つ一つ受け取りながら、苦笑いでそう言った。
一方、私はというと、彼が“ついでに”という辺りからなんとなく何を言うのか想像していたものの、
やはり頭に来てしまい、気づかれない程度に舌打ちしていた。
「心配ありませんわ。私達、しっかりこの可愛いワンちゃんをお世話させていただきます」
メイドの一人がアーノルドの顎の下を撫でながら、にこりと答える。
次に、別のメイドが、この子のお名前は?と聞いてきたので、私はアーノルドだと名前を教えた。
「素敵なお名前ですね」
最初のメイドがそういってアーノルドの頭をやさしく撫でた。
これなら、アーノルドを敵視している悪魔と一緒にいさせるよりはずっと安全だ。
私は安心して彼女たちにアーノルドを任せ、汽車に乗るため駅へ向かった。