~悪魔執事とお嬢様~
「フォスター伯爵の事を父がとても気に入っておられるせいでしょうか。貴女が生きていた事と会社を継いだ事、その両方を新聞で見つけたとき、大発見のようにはしゃいでいました」
「“気に入っておられた”ですね」
言った瞬間に言わなければ良かったと思うことは何度もあるが、これほどまでに後悔したことはない。
つい訂正してしまった。
「…あぁ、そうでしたね。申し訳ありません。
たいへんお悔やみ申し上げます」
「いえ、私こそ。どうかお気になさらないで」
一瞬気まずい空気が流れ、ヴィル爺には失礼だと言わんばかりに睨まれた。
私も反省はしているが、きっと次また同じことがあっても訂正してしまう気がした。
「お嬢様も、伯爵になられるのでしたら、亡き旦那様に近づけるよう精進しなければなりませんね」
シリウスがそう言って助け舟を出したお陰か、会話は元の調子に戻った。
私は確実に後でヴィル爺からこっぴどく叱責されることだろう。
「しかし、その若さで伯爵になるなど大変でしょう?ましてや、会社の経営まで背負うなど…私には到底できません」
カスバートン氏がそう言ったので、私は「ええ。それに、この性別はついて回りますしね」と笑顔で答えた。
が、実際のところ、私は現状が大変だとは特に思っていない。
面倒なことはたくさんあるが、どれもフォスターの家を守るのに必要なことだ。
例え私が短命でも、フォスター家は気高いまま終わらなければならないのだから。
彼が私の話を充分にひきだしたとき、頃合いを見計らって私もカスバートン氏にいくつか質問してみた。
「お父上は、私と会う事をなんとおっしゃっていましたか」
「そうですね、確か、私とあなたが許嫁になりかけたことを話した後、ヴェアズリー夫人に会う機会を頂いたと話していました」
「ああ、やっぱり…」
結局、ハウススチュワードのヴィル爺一人がカスバートン候をどうこうできるわけもなく、おばさまの手はとっくに加えられていた。
「ご安心を。私もまだ結婚しようとは思っていません。父が強引に決めるのなら___まあ、そんなことはないとは思いますが___反対する気ですよ」
笑顔で笑い話の種としてカスバートン氏はそういったが、ここでヴィル爺はあからさまなしかめ面をした。
「それに、私と貴女はまだお互いをよく知らないのですから」
ヴィル爺の視線を感じ取ったのか、カスバートン氏はすかさず可能性があるかのように付け足した。
とても利口な方だ。私は彼が自分と概ね同じ考えだった事に、酷く安心した。