~悪魔執事とお嬢様~
「たしかに勘だけはいいみたいですね」
私はフッと笑い、またカスバートン氏の事を考えた。
許嫁になる予定だったとは言えど、会ったことは恐らくほとんど無い。
もう少し早く彼とあって色々話してみたかった。
最近常々思うのだが、私はこの15年をあまりにも読書と無駄な皮肉遊びに費やしすぎた気がする。
外に行く機会はお父様とお母様の紹介でいくつもあったというのに、今の知り合いは使用人数名と、友達のキティ1人しかいない。
唯一お父様とお母様から無縁の、自分が知り合った存在が悪魔だなんて。
とはいえ、外へ出るのも交友関係を作るのも全て私の面倒くさがりな性格から渋ったのが原因だ。
次からは私も面倒くさがらずに取り掛かるとしよう。
そう決意した時、シリウスが静かに呟いた。
「そういえば、お嬢様へパーティーやお屋敷のご招待の手紙が何通かありましたね」
私は顔を覆った。
なぜこういう時に限っていかにも面倒くさそうな話が舞い込んでくるのだろう。
パーティーなんてそれこそ親しい知り合いがいるでもしない限り面倒で行きたくない。
しかし、親しい知り合いがキティぐらいしかいないということはパーティーが派手になるという可能性もあるのでやはり行きたくない。
「今は予定がはっきりしていないので、一週間以内のものはお断りを、それ以外のものは保留にしておいてください」
またしても私の面倒くさがりが出てしまったようだ。
もしこの調子で私が新たな交友関係を築けるのならそれはもう一種の人に好かれる才能だろう。
「中身を見もせずにお断りになるのはいかがなものかと」
シリウスは眉をクイッとあげ、大層あきれた様子でそういった。
「そんな顔はよしてください、見飽きた」
私が何かを始めても、放棄してもこの顔だ。
ヴィル爺といいシリウスといい、執事という職に就いたら全員が何事にも呆れるようになってしまうのだろうか。
もっと寛大になればいいのに。
そう思っていると、シリウスはそっと一枚の手紙を手渡し、「このお手紙もですか?」と尋ねた。
「全てです」
中身も確認せずに私は返事をする。
が、シリウスは歳のせいか耳が遠いようで、手紙の差出人と中身を勝手に読み始めた。
「差出人、A.D・グレゴリー(A.D.Gregory)様。
親愛なるシャロン・フォスター様、お久しぶりです。お元気でしょうか」
「わかりました、読みますよ」