~悪魔執事とお嬢様~
廊下にはお父様もいた。
お父様は、腰に剣を、
手には銃を持っていた。
剣術の試合があるわけでもなさそうだ。
二人とも所々汚れている。
この汚れは、今にして思えば血液
だったのかもしれない。
私とお母様は階段を上がった。
お父様は後を追うように着いてきた。
最上階に行き、鍵を閉めて立てこもる。
単純な作戦だ。
なぜ襲われたのかは分からない。
父の経営しているフォスター社には、
ライバル社が多く、権力としての敵が
色々居るせいで、
考えられる原因は多すぎた。
「おやおや、逃げられては我々もいささか
困るんですよ。フォスター伯爵。」
後ろを振り返ると、敵がいた。
鎧を着ていて、バカでかい。190以上ある。
声は低く、通る声だ。
「エミリー、
シャロンを連れてあの部屋へ!!」
お父様はお母様に向かって怒鳴りながら
そういった。
私はお母様に連れられ、
最上階へ向かった。
私には危機感があまりなかった。
状況が呑み込めないでいたのだ。
「うっっ!!」
お父様の声と、鈍いグチャッという音が
後ろで聞こえた。
そして再び聞こえた鈍い肉を貫く音。
生きていると思いたかったが、
それっきり呻き声すら聞こえなくなった。
ここではじめて、私は怖くなった。
考えたくないが、
どうなったかは想像できる。
涙を流す暇なんか無かった。
唯ひたすら、その瞬間が恐ろしく思えた。
お母様を見ると、強ばった顔で、
しかし悲しそうな顔で
淡々と階段を上がっていた。
きっと私よりも、
哀しくて恐ろしかっただろう。
お父様とお母様は本当に仲がよく、
最高のパートナーだと、娘の私ですら
思ったほどだ。
そのパートナーを一瞬のうちに失ったら…
父が亡くなったという事実を
受け入れるだけでも私は大変なのに。
…まだ、最上階にはたどり着けない。
私の屋敷には、
最上階の孤立した部屋と、
屋上にいける階段が別れている。
敵が間違えて屋上へ行ってくれれば
いいのだが……
そう願った。