~悪魔執事とお嬢様~


ーーズシッ、ズシッ、ズシッ


鎧を着たあいつが階段を上がってくる。


鎧を来ているせいか、速度が遅かった。

だが、それでも近付いて
来ていることには代わりない。


鎧を着た奴の足音が段々大きくなり、
遂には、見える場所まで来た。



ちょうどそのとき、扉が見えた。

私とお母様はひどく安心した。

そして互いを見つめあい、
安堵の息を漏らそうとした。


ドアを開ければ、
鍵を閉めれば安全な気がしたのだ。

せめて、中にはいれば打開策を
考えられると。


それなのに……。


ドアを開けるよりも、安堵の息を
洩らすよりも早く、鎧の男はやって来た。


腰にさした剣へ手をかけ、振り上げる。


今さっき、貫いた者の血を、
お父様の血をこびりつかせたまま。

見ることしかできない。

もう遅い、逃げられない。


男は剣を力任せに降り下ろした。



「あぁ!!」



お母様の肩にぎりぎりあたり、
肩の断片が削がれた。


男は迷いなく次の一手を仕掛ける。

剣をお母様の胸に突き刺したのだ。


剣ごと、お母様は持ち上げられた。

どれも一瞬のことだ。
逃げることなんてできなかった。


ドアに手をかけることぐらいは
できたかもしれないが、

ドアを開けて中にはいるなんて
到底無理だ。



ーー次は私か。



抵抗することもなく、私はそう悟った。

目の前にたっている大柄な男に、
勝てる気などしない。


逃げず、先程とはうって変わって
恐怖も感じず、男を睨み、
そのまま私は腹を突き刺された。



「うぅぅ!!」



血がお腹から出た。
体が反動で反り返り、座り込むように
倒れた。

痛みで叫ぼうとするも、次には口から血が
吐き出された。


口から吐き出されるのには
少し時間がかかったが、

間違いなく肺を傷つけられている。


しかし、客観的に見ても命に関わる
傷のはずなのに、痛いと感じるより
先に、音が聞こえた。



『シュッ』と腹を突き刺し、なにかが
引っ掛かる音。(恐らく臓器だろう)

引っ掛かりながらも無理矢理剣を引き抜く
鈍い音。

自分が倒れ混む音、跪いて手をつく音と
感触。

吐き出された血の『ビチャリ』と言う音と
喉から込み上げた血の味。


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