~悪魔執事とお嬢様~
「………」
「まーさかあんたが新しい若い男の執事を
連れてくるとはねぇ!」
…絶対勘違いしてるな。
これでも私は、おばさまと違ってまだ“世間知らずなレディ”なのに。
自分の記憶が全て事実ならば恋すらしたことがない。
「後ろのが例の新しい執事君ね!」
「ええ、まあ。」
おばさまがシリウスを指す。
執事というよりも出来損ないの犬だ。
「シリウス・アヴェリーと申します。」
礼儀正しくシリウスは頭を下げて
自己紹介をする。
そんなシリウスをおばさまは鋭く睨む。
続いて椅子を降り、
シリウスの近くに歩いてきた。
疑うようにシリウスの周りをくるくると
ゆっくり廻る。
「ふぅーん。
一つ、訊いてもいいかしら?」
「ええ。」
「シャロンを、最後まで守りきれる?
命を懸けてでも。」
おばさまは止まり、
横目でシリウスの答えを待った。
なぜ、そんなことを訊くのだろう?
私がいない間に何かあったのか?
いや、そういうわけでもないか。
なにかと恋物語や演劇の好きなお方だ。
半分本気で、半分雰囲気で言っているのだろう。
「わたくしの仕事は執事、
お嬢様のお世話をする役目でございます。
例え、この身を挺してでも、
守りきる次第です。」
シリウスは真剣な顔つきで、
おばさまの方を向くこともなく答えた。
まあ、命もなにも相手が人間ならば
守りきるなど簡単だろうが。
「…その目、どうやら本当のようね。
で、今度はシャロン。
率直にいって、あなたにフォスター家を
継がないでほしい。」
たんたんとおばさまは言った。
なぜ、私が継いではいけない?
おばさまの訳のわからない“率直”に、困惑する。
私はフォスター家の血を受け継ぐものだ。
それなのに、なぜ…。