~悪魔執事とお嬢様~
執事と契約の刻印
****
「「シャロン…」」
誰かの呼ぶ声が聞こえた。
ここは…現実ではない。恐らく夢の中、だろうな。
明晰夢、とまでは行かないだろうが、
少なくとも夢という自覚はある。
私の名を呼んだのは、紛れもなくお母様とお父様だ。
「お母様、お父様…。」
声のする方へ顔を向けると、二人が見えた。ものすごく遠くだ。
一歩でも反対方向へ動けば、ぼやけてしまいそうなほど。
白と黒の空間。
私は黒で、二人は白。
まあ、当たり前だろう。
理由が浮かぶよりも早く、納得できた。
私が死んだとして、
天国と地獄のどちらへ行くかと
聞かれれば、地獄だと言える自信がある。
「シェリー……いえ、シャロン、復讐など、やめなさい。」
お母様の穏やかで優しい目がそっと私に
語りかける。
怒っているようには見えない。
それどころか幸せそうな顔だ。
私がすんなりと受け入れると
思っているのだろうか?
いや、私の夢なのだから、心の奥底で
ためらいを感じていて、それが夢に
写し出しているのだろう。
「なぜ、やめなければいけないのです?」
「そんなことをしても私たちは喜べない。
お前には生きてほしいんだ。」
お父様の気高く男らしい目が、
私を見つめる。
本当のお母様もお父様も、
きっと同じように思っているだろう。
だが、私の答えは変わらない。
「あなた方は、私の夢。
意見する権利など、ありもしません。
それに、私は誰に言われようと、
復讐を果たします。」