迷走女に激辛プロポーズ
「貴女が大野木楓さん?」

それは佑都のマンションに身を寄せてから二週間ほど過ぎた八月四日のことだった。

清香とはまた違う、楚々とした白百合のような和美人。彼女が私を呼び止めたのだ。

その日は榊部長と三人の課長が、十月開催予定のKOGO創立記念式典の会議に出席していたので、珍しく定時に仕事が終わり、私はウキウキしていた。

喜び勇んで帰宅し、着替えを済ませると、一カ月ほど前、近所にオープンした輸入食材専門店に足を向ける途中のことだった。

この店、雑誌で何度も取り上げられている有名チェーン店で、珍品から超高級輸入食材を扱う店として名を売っていた。価格は少し高めと聞いていたが、そんなことは全然気にならなかった。

どんなお宝と出会えるかとワクワクしていたのに……貴女はなぜに私の足を止め、享楽な時間を奪うのか!

その上、夕方とて、夏の日差しは半端無い。木陰も見当たらぬ道端で、見ず知らずの他人と何の話があるというのだ。

私は不貞腐れ気味に頷くと、彼女は花のような笑みを浮かべ言った。

「白鳥佑都様を返して頂けないでしょうか……」

ドクンと心臓が嫌な音を立てる。彼女が佑都の最愛の人?
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