迷走女に激辛プロポーズ
私はいま実家のダイニングで、ナス田楽を無言で口に運んでいる。

茄子は父が丹精込めて作った物だ、と母が佑都に説明していた。その茄子に母手作りの田楽味噌を塗っただけの素朴な品だ。だが、素朴さ故の真の美味しさが、ホッと気持ちを和ませる。

ダイニングテーブルの上には、その他にも、母手ずからの料理が所狭しと並んでいる。

母は多趣味で料理もその一つだが、料理教室を開けるほどレパートリーも豊富で味も最高、なのに未だ教室に通っている。そして、先生以上の腕前で先生を困らせているらしい。

私が料理を作るより食べる方が好き、という理由はそれ故だ。母以上の物は出来ない。
それにしても……と私は思う。

願いが聞き届けられたのか、奇跡が起こったのか分からないが、想像していた悲惨な状態は回避された……のか?

その代わり、理解できない状態が目前で展開されている……。
モグモグと口を動かし、話をする両親・兄・佑都を世空言のように眺める。

私は忘れていた、記憶の彼方に飛んでいたのだ。T大を宇宙の入り口と信じ、T大卒者を宇宙人だ、と思い始めたきっかけが兄だったことを!

そう、兄もT大卒だった。
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