迷走女に激辛プロポーズ
佑都は両親と兄に向かって肯定的に頷く。そして、私を見ると、大丈夫だよ、というように優しく微笑む……王子スマイル……安堵が胸に広がる。

「彼女の気持ちは本人から聞いて知っています。ただ、以前の彼女とは違います」

以前の私……? どんな風に見えていたのだろう……この王子然とした彼に……。

「彼女は今、懸命に前を向き、考え、進もうとしています。彼女が自身の『気付き』を得るためには、一緒に暮らす必要があります。だから、もう少し時間を頂けないでしょうか」

佑都は音も無く立ち上がると、姿勢を正し、深々と頭を下げた。

その姿を目前にし、ハッとする。彼は物語の王子なんかじゃない!
今、目の前で真剣に頭を下げている彼の姿は、泥臭い生身の人間だ。

だが、その姿の方が、数百倍も数千倍も素敵に立派に見えた。
カッと熱い何かが胸に湧き上がり、その瞬間、私も立ち上がり、佑都のように頭を下げていた。

「お願い! もう少し、もう少し、このままでいさせて!」

彼をどう思っているかとか、気持ちが分からないとか、そんなの今はどうでもいい。

彼の世界を見たい! 彼を知りたい! その気持ちは変わらずズットある。今はその気持ちを大切にしたい。
< 136 / 249 >

この作品をシェア

pagetop