迷走女に激辛プロポーズ
兄が何と言おうと、私は彼の元を去りたくない。
その先が知りたいから……彼との未来がどうなるのかを……。

シーンと静まり返ったダイニングで、聞こえてくるのはコチコチと時を刻む古い鳩時計の音だけ。

過ぎ去る時の音を聞くうち、頭を下げたままの瞳から、一粒涙が零れ落ち、床に小さな染みを作る。

それは、婚約者を失ってから流す初めての涙だった。

どれぐらい時間が過ぎたのだろう。両親に続き、ようやく兄が折れた。
条件付きで……。

「但し、一週間後、十五日までだ。それまでに気持ちに区切りを付けろ」

兄の宣言を最後に、私たちはお役御免となった。

「大丈夫か? 楓」

運転席に座る佑都が不安気に訊く。

「うん、大丈夫だよ」

マグマの噴火は最小限に止められた。

「兄は相変わらずで俺様だけど、間違ったことは言ってない。それに、私のことを心配した上だし……」

そして、やっぱり……だった。兄は亡き婚約者のことをまだ気にしている。そう、感じた。

弟のように可愛がっていた彼との婚約を勧めたのは兄だった。
年の離れた私への過保護振りは昔から親よりも凄く、結婚相手も自分のお眼鏡に叶った者と決めていたようだ。
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