迷走女に激辛プロポーズ
そして、その傷を更に広げ塩を塗り込む清香。

「瞬間が『無い』じゃなく、子猫ちゃんが瞬間を『気付け無い』のよ。心に分厚い緞帳を下ろしているから」

彼女のいつになく厳しい目が私を見る。その眼の奥に、わずかだが……慈愛と憎しみ、相反する感情が見える。その瞳を見て思う。

私が気付いていなかっただけで、最初からそうだったのかもしれない……と。
私は知らぬ間に、そんな思いを抱かせる、何かをしたのかもしれない……と。

「よく言うでしょう。人生はストーリーの無いドラマのようなものだと。そこでは、女は女優で、誰もが主役になれると……でも、主役がドラマを放棄したらストーリーは続かない。幕が下りたも同然。外界と遮断された、空っぽの無の舞台で、女優は何を気付き、得られるというの? だから子猫ちゃんは気付けないの……」

淡々と話す清香。彼女の話に耳を傾けながら、あぁ、遥香との違いはこれだったのだと気付く。

遥香は自分の舞台を精一杯努め上げる女優で……私はエキストラですらない。
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