迷走女に激辛プロポーズ
午後十時三十八分。キングサイズのベッドの上。大人な時間を無視する男と女。

「何のための五年間だったんだ! 結局、振り回されっぱなしじゃないか! もーヤダ! こんな奴、ヤダ!」

「共演者の皆様……罪深き私を……どうか……お許し下さい……」

片や、髪を搔きむしる男。
片や、ティッシュの箱片手にオイオイ泣き叫ぶ女。

誰あらん、佑都と私だ。
だが、流石、佑都だ。やっぱり冷静になるのも早かった。

「――そうだ相手はコイツだった。最初にちゃんと聞かなかった俺がバカだった」

自分を納得させるように掌で両頬をペチンと叩く。そして、私に目を向け、再び、ガックリ肩を落とす。

「お前なぁ、千年の恋も冷めるような顔だな。涙と鼻水でグチャグチャだぞ。ほら、泣き止め」

佑都はヘッドボードに背を預け、私を横抱きにすると自分の腿の上に座らせた。そして、私をスッポリ腕の中に包むと、大人が子供にするように、ポンポンと優しく背中を叩く。

「婚約者を祈り殺したから、お前は何年も頑なに一人で生きてきたのか?」

グスグスと鼻を鳴らしながら、怪訝な表情を浮かべる私に、佑都は溜息を吐く。

「無自覚か……具体的に言えば、友達も作らず、ご両親やお兄さんにも心を開かず、自分の心も見ないように生きてきたのか、と訊ねたのだ」
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