迷走女に激辛プロポーズ
「どうして殿様に誤解だと言ってくれなかったの！」

会社へ向かう車の助手席で私は憤慨していた。

「フン、小さな復讐だ」

コヤツまだ昨夜のことを根に持っているのか、懐の小さな奴め！

チッと小さく舌打ちしたのが聞こえたみたいだ、長い腕を伸ばし頬を抓ってくる。その手を払い除け、彼の横顔を睨み付ける。

「痛い目に合わせたいのは私の方だ！」
「なら、どうぞ」

佑都は、ホラ、やってみろ、というように、私の方に顔を寄せる。

「コラッ、危ないじゃないか！　運転に集中しろ！」

その横顔を掌で押し返し、プイとソッポを向く。すると佑都がクスクス笑い出す。

「いいな、こういうの。何者にも邪魔されず、お前と二人だけの空間。最高に気分がイイ」

変なことを言うな、と佑都の方を見る。

「何を言っているの？　今までだって二人でいること多かったよ」
「イヤ、いつも婚約者の存在が付きまとい、三人でいるようだった」

三人……佑都の言葉に、そう言えば私はいつも佑都の『最愛の人』の存在があったなぁ、と思い返す。

そして、アレッ？　でもその最愛の人は実は私だった。
じゃあ、私は私をズット気にしていたってこと？

気にしていた……嗚呼、そうか！　そうだ、気にしていたのだ。私は彼女のことを……ズット。やっと分かった。
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