迷走女に激辛プロポーズ
彼はいつもそうだ。いつも私を気に掛け、優しく包んでくれる。

彼の声が、聞けない。
彼の温かさを、感じない。
彼の優しさに、包まれない。

彼がいなくなるということは……そういうことだ。
それに耐えられるのか? 自問する。

答えは分かっている。耐えられはずなどない。
思わず佑都のシャツを握る。彼がどこかに行ってしまわないように……。

佑都は、突然の行動に、何だ? という顔をしながらも、クスッと笑う。
その瞳は慈愛に満ちていた。

嗚呼、本当だ、二人きりの空間だ……。



棘が一本抜けた途端、気持ちが軽くなったような気がする。

「綺麗な犬でしたよ」

トロトロオムライスが、いつもの倍以上に美味しい。それにいつも以上におしゃべりだ。私は清香と遥香に、今朝見たダルメシアンの話をしていた。

「あのワンちゃん、体つき色っぽいですよね。雌でも雄でもツンと澄ました女王様に見えます……ところで、白鳥課長は?」

遥香がエビチリを口に運びながら言う。
昨夜、カンフー映画を見たから、今日は中華定食の気分なのだそうだ。

「榊部長に呼ばれて外にお出掛け?」
「どうして疑問形なの。そう、KOGO創立記念式典の会議。私も午後からそっち。矢崎課長もね」

清香は軽く突っ込み、断定的に言い切り、遥香にウインクし、話を続ける。
遥香は矢崎課長のところで真っ赤になる。実に初々しい。
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