迷走女に激辛プロポーズ
彼女は私の存在に気付いた?
キスする寸前、こちらに視線を向けたような気がしたが、気のせいだったのだろうか?

そう言えば、亡き婚約者の愛人たちも、こんな意地悪をよくした。
彼女たちは婚約者に気付かれないように私を呼び出し、見せ付けるようにキスをした。

あの時は、どうぞご勝手に、と気にも留めなかったが……。

幻想的だった商店街が、妖の世界に代わる。
その中を、二人を乗せた車がゆっくり進み、やがて小さく見えなくなる。

一人その姿を見送った私はボンヤリ思う。
何かに化かされたのかもしれない?

肩越しに振り返り、もう一度空を仰ぎ見る。
黒雲の合間から、オレンジ色の光が幾筋も降り注ぎ、街を明るく照らし始めた。雨はすっかり止んだようだ。

やっぱり化かされた……?
イヤ、そんなことはない、と首を横に振る。

現実だ、目を背けるな、認めろ!
心の動揺が事実を歪めないように、自己を納得させる。

そして、再び前を向くと歩き出す。
ジワジワと湧き上がる混濁とした思いと共に。
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