迷走女に激辛プロポーズ
「何しちゃってくれちゃったりするの!」

佑都を未使用の会議室に引きずり込み、叫ぶように言う。

「どうするのよ、あれ!」

胸倉を掴んで壁に押し当て、鬼の形相で詰め寄る。

「言っただろ、楓を守るって。竜崎課長の毒牙から守っただけだ」

佑都は涼しい顔で「助かって良かったな」と私の頬を手の甲で撫でる。
清香とは違う甘い痺れが体を走る。

「ちょっ、ちょっと止めなさい!」

掴んだシャツから慌てて手を放し、二歩後退する。
佑都は壁にもたれたまま、腕を組み、余裕の表情で私を見下ろす。
その余裕が腹立たしいと、私も負けじと睨み返す。

「言ったよね、秘密にしてって。なのに早速バラしてどうするの!」
「付き合っているとは言っていない。俺のだ宣言しただけだ」

「バカー! 同じようなものでしょう。どう収集付けるの!」
「人の噂も七十五日って言うだろ。放っておけ」

全く問題ない、というようにシレッと宣う。

嗚呼、そうだ、そうだった。コヤツはこういう男だった。
どこか飄々として、妙な余裕があるのだ。私は溜息と共に項垂れる。

「話はもういいのか? じゃあ!」

佑都はいきなり私の手を引き、立ち位置を逆にした。
目を見開き唖然と奴を見上げる。

「壁ドンは男がやるものだろ?」
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