迷走女に激辛プロポーズ
クッと色っぽく笑うと、佑都は壁を背に立つ私の顔の横にワザと力強くドンと音を立て片手を付く。そして、耳元に唇を寄せ囁く。

「俺は腹が減って死にそうだ。社食へ行くぞ」

甘く低いバリトンの声。そして、熱い息……が耳に触れる。
ゴクリと唾を飲み込み、私は思う。

これは落ちる! ヨロメク!
これが壁ドン・マジックというやつか!

冷静に考えれば、今の言葉のどこにトキメキポイントが有る?
無い! なのに胸のドキドキが止まらない。

ブラジルで見た、リオのカーニバルもそうだった。趣向を凝らした煌びやかな衣装。サンバの曲に合わせ魅惑的に踊るダンサーたち。血がたぎるとはあのことだろう。

高ぶる感情に我を忘れ、パレードに飛び込みそうになった。それぐらい衝撃的で官能的だった。

今、私はカーニバルの真っ只中に居る。

「おい、呆けていないでそろそろ戻って来い!」

気付くと、既に会議室を出て……いつの間にか佑都に手を取られ、廊下を歩いていた。

何気に恋人繋ぎというやつだ。
これはこれで……またドキドキするシチュエーションだ。
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