迷走女に激辛プロポーズ
「……えっと……これは……」
言い訳しようとする私を、遥香は「チッチッチッ」と舌を鳴らし、人差し指を顔の前で振り制す。そして、佑都の肩をポンポンと叩く。
佑都は、何だ、と怪訝な顔で振り向く。
遥香は祈りのポーズで、少女漫画の主人公のように、瞳に星を浮かべ満面の笑みで言った。
「白鳥課長、おめでとうございます。楓様と末永くお幸せに」
「ゲッ」と下品な声が出る。何を言い出すのだこの娘。
呆気に取られる私の横で、佑都は平然と応答する。
「ありがとう」
間違っている……のか? 何かがおかしい……のか?
昨日からの急展開に、思考が麻痺し始めている。
「――えっと……違うからね……」
自信のない否定の言葉を聞きながら遥香はのほほんと笑う。
「楓様、照れなくてもいいです。私も婿探し頑張ります!」
普段、率先して女性に話しかけない佑都が「おめでとう」の言葉に気を良くしたのか、話に加わる。
「神崎君は養子取りか」
「そうなんです。誰かいませんかねぇ」
「どんなのが好みだ」
早速、弾丸の如く婿の条件を並べ立てる遥香。
虚しくも、私の反論は婿の彼方に消え去った。