迷走女に激辛プロポーズ
「何これ?」と問う私に、彼はクイッと顎で封筒を指す。

開けろという意味か? 俺様かよ、と心の中でツッコミながら軽く舌打ちするが、やっぱり中身が気になるので封筒を開ける。そして、取り出したものは……。

二つ折りの薄っぺらな用紙。まさか……。
開くと同時に出る溜息。やっぱり……。

目に飛び込んできたのは『婚姻届』の三文字。
まったくコヤツときたら……。

「あのさ、冗談もほどほどにだよ!」

あっさり流し、用紙を畳み、元に戻す。

婚姻届を目にしたのは、これで二度目だった。一度目は大学の卒業式の日。幼馴染の婚約者から渡された。だが、記入済みの書類を役所に提出すること無く、彼はツツガムシに刺され、天に召されてしまった。

本当に呆気なかった。だから未だに彼の死が受け入れられない。
私は未婚未亡人だ。このまま一生独身で終えるだろう。

「冗談で結婚を申し込む趣味はない。今日のところは俺が預かっておく」

佑都は封筒をビジネスバッグに仕舞い、何事もなかったかのようにオリーブを抓む。

――預かる? 自分で持ってきたんだろ、とツッコミそうになり、返り討ちになりそうなので止めた。その代わり、チビチビ飲んでいたカシスオレンジを一気に飲み干し言う。
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