迷走女に激辛プロポーズ
逆光を浴び、浮かび上がるシルエット。それだけで十分分かるスタイルの良さ。

「――アポロン?」

理想の青年像と言われるギリシャ神話の神。彼の名を呼ぶ。
途端に飛んでくる怒気を含んだ声。

「お前、寝惚けてるのか、命の恩人を差し置いてアポロン? 何だそれは!」

佑都だった。どうやらかなりお怒りのようだ。

彼はバタンと音を立てドアを閉めると、ベッド脇のサイドテーブルに持参したトレーを置く。

トレーの上には水の入ったペットボトルと、少し大振りのウォーターグラス、そして、冷却シートの箱が乗っていた。

「えっと、すいません……でございます。で……ここは?」

一応丁寧に謝っておく。

ワイシャツにネクタイ姿の佑都が身を屈め、私の顔を覗き込む。

そんなに近付かなくても……とドギマギしていると、額の冷却シートを乱暴にペリッと剥がす。

一応の謝罪が、お気に召さなかったようだ。

「俺の自宅の寝室のベッドの中。会社で倒れたお前を、会社から近い我が家に、わざわざ! 連れて来て、親類の女医まで呼んだ。過労及び心労で発熱したとのことだ。お前の場合、知恵熱みたいなものだ。で、どうだ気分は」

「ボーッとしている……そっか、詳しい説明を有り難う」

お礼を述べると、なぜか佑都は更にムッとする。
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