迷走女に激辛プロポーズ
「私も冗談で受ける趣味はない。同じ物をお願いします」

目線でグラスを指すと、ロマンスグレーでダンディーなバーテンダー古館氏が「承知しました」と頷く。

「おい、明日仕事だぞ。飲み過ぎるな」

佑都は眉間にシワを寄せて、なぜか焼きおにぎりを私の唇に押し付ける。
時々、コヤツの行動は謎だ。餌付けのようなこの行為もちょくちょくする。

しかし、まぁ、焼きおにぎりに罪はない。口を大きく開け、パクリと齧り付く。

ここの焼きおにぎりは、醤油味と味噌味が二個ワンセットで出てくる。私は醤油味、佑都は味噌味が好みだ。

今日も醤油の焦げ具合が最高に美味だ!
モグモグと咀嚼を繰り返し、ゴクンと飲み込み、口を開く。

「で、最愛の人が、ここに居るのに……」と彼の心臓を人差し指で二度押す。

「どうして結婚しよう、と思ったわけ?」

私も二十代後半の大人。焼きおにぎりに免じて佑都の言い分を聞いてやることにした。

「うるさくなってきたから?」

佑都は小首を傾げ、私が齧った焼きおにぎりを口に放り込む。

あっ、醤油味を……食べた。
メラメラと怒りが再熱する。
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