迷走女に激辛プロポーズ
「うん、ありがとう。使わせてもらうね」

タオルを受け取り、早々、シャネル№5と書かれた袋を選ぶ。

「じゃあ、ごゆっくり」と佑都がバスルームから出ると服を脱ぎ、袋からシャンプー、トリートメント、ボディーソープ、バブルバス剤を取り出し浴室に入る。

少しフラフラするが、ただ単にお腹が空いているだけだ。

手に持つそれらを棚に置き、シャワーのコックを捻る。丁度良い温度のお湯が勢い良く吹き出し全身を濡らす。

途端に飛び出る「フワァァァ」の色気無い声。

それにしても、佑都……アヤツ何者だ?

寝室、リビング、バスルーム。三か所見ただけだが、ここは最上級のマンションだ。エグゼクティブでもない一介のサラリーマンが、こんな場所に住める筈がない。それぐらい素人探偵(?)の私でも分かる。

だが、驚きは無い。やっぱり、と確信しただけだ。

そんなのは、奴の持ち物や普段の仕草・行動を見れば一目瞭然だった。
何不自由なく育った上流階級のお坊ちゃんだと……。

髪を洗いボディーソープで丁寧に体を洗う。なんせ二日ぶりのお風呂だ。
シャワーで泡を落とすと、体がスッキリ軽くなる。

まっ、佑都のことはそのうち分かるだろう。
奴は「俺のことを知れ」と言った……ということは追々正体を明かすつもりだろう。

それにしても、まさかだが、この年で本当に知恵熱だったのか?
空腹で死にそうだが、すっかり回復した。とても気分がいい。
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