迷走女に激辛プロポーズ
そう言えば、婚約者は濃い顔で圭吾と同系だったなぁ、と思い出し。ということは、婚約者の顔も好きではなかったということか……と今更の事実に驚愕する。

フト、遥香と知り合って間もない頃、彼女が言った言葉を思い出す。

『私、婿選びの条件の一つに、“キスができる人”が有るんです。だって、キスもできないようじゃ、あんなことやこんなこと……ンフッ、大人な関係に進めませんもの」

ンフッの後にピンクの息を吐き、そんな風なことを言っていたと記憶する。
同期だが、今時女子の発展的発言を聞き、妙に感心した。

そして、その後続けて彼女は言った。

『少し前、人間的にとても感じ良い男性と知り合ったんです。で、彼とのキスを想像して号泣したんです。理由は彼の顔が大嫌いだったから』

遥香は言葉を区切り、大きな溜息を一つ吐いた。それから、ドンとテーブルを叩いた。

『人間、顔じゃ無いとか言いますが、あれは嘘です! 綺麗ごとです! 嫌いな顔が至近距離にくるとか有り得ません! 内面の良さは当たり前、外見は好みじゃなきゃ嫌、と私の中で結論付けた一瞬でした』

なるほど一理有るかも、と思った。

遥香の言葉を借りれば、私は婚約者の顔が嫌いで、彼とのキスがイヤだった。だから、それ以上の行為をしようと囁かれ、彼に嫌悪と恐怖を抱いた……ということか? だから、切に願ってしまったのか……無関係な結婚生活を。

ウーンと唸り、否定できない……かも、と思った。
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